肺がんで闘病中の大林宣彦監督(80)が27日、大阪・ステーションシネマで初日を迎えた新作映画「花筐/HANAGATAMI」の舞台あいさつを行い、ステッキを支えにタップを踏むしぐさを見せた。「ちょっと無理か」と苦笑しながら、去り際には「今度会うときはフレッド・アステアのように」と言い、手を上げ、客席から大きな拍手を浴びながら退場した。

 大阪公開初日の上映後、姿を見せた大林監督は、ステッキを支えに歩いて登壇した。

 「こんなステッキ持ってきたんでね。ほんとはここで、フレッド・アステアのようにステップでも、とね。ほんとはうまいんですよ。でも、さすがに今日はね、ちょっと踊るわけにはいきませんけどね」

 いきなり、米俳優でダンサー、ハリウッドのミュージカル映画の立役者でタップの名手、フレッド・アステアの名をあげ、あいさつを始めた。

 映画「花筐」は、太平洋戦争開戦前夜、少年少女たちの心の揺れ動きを描いた青春群像劇。自身の戦中、戦後の体験を話し始めると、ノンストップで26分が経過していた。

 予定の30分まで、もうすぐ。次回の上映予定が迫っていたため、司会者がやんわりトークを制し、写真撮影タイムへと促した。

 「ほー、こんな時間か」。“絶口調”の「大林節」は止まらず、撮影時間になっても、がんとの「共生」を語り続けた。

 がんを「私の体の同居人」と言い「かわいいやつ」と表現。「やつは俺の血液、細胞を食ってる宿子。あんまりわがまま言うと、宿主の俺がいなくなってしまうぞと言っている」と続けた。

 大林監督は、一昨年7月の同映画クランクイン前日に、ステージ4の肺がんで余命3カ月と宣告。しかし、予定通り撮影を終え、無事に公開を迎え、今後も映画製作を続けると力強く話している。

 余命3カ月の宣告から約1年半。今月9日には80歳の誕生日を迎えており「がんのおかげでちょっと賢くなった。そういう力が、この余命3カ月という中で映画を完成させる力を与えてくれた」。今作完成への自信から「そしてこの映画に宿った力がまた力を与えてくれる」と語り、衰えぬ創作意欲へとつながっていると説明した。

 あいさつを終え、帰り際、客席から「監督っ! また(次作を)お願いします」などと声が飛ぶと、手をあげてこたえた。そして、ステッキを支えにしながら、足元を動かした。

 フレッド・アステアばりのタップダンスを見せようとしたものの、地面がじゅうたんとあってか、思うようにいかず「無理か」と苦笑。再び手をあげ「今度会うときは、フレッド・アステアのように」と、ダンス披露を約束して、会場を去って行った。