第90回米アカデミー賞発表・授賞式が4日(日本時間5日)、米ロサンゼルスで行われ、英映画「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」(30日公開)の特殊メークを手掛けた辻一弘氏(48)ら3人がメーキャップ&ヘアスタイリング賞を受賞した。主演ゲイリー・オールドマン(59)をチャーチル元英首相そっくりに仕立て、同部門では日本人初のオスカーを手にした。

 辻氏は、名前を呼ばれると黒縁めがねをかけ忘れて登壇した。「めがねを忘れました」。緊張もあるのか、めがねをかけてから、少し早口で、用意したメモを見ながら英語でスピーチした。「ゲイリー・オールドマンに心から感謝します。あなたと、この素晴らしい旅ができて光栄です。あなたなくしては、ここにはいられなかった。真の友人です。私たちの夢がかないました」。オールドマンも感無量の様子でうなずきながら辻氏を見つめた。

 12年に映画界を引退後、現代美術家として活動していた辻氏にとって、久しぶりの特殊メークの仕事だった。オールドマンから届いたラブコールに心が動き、一時復帰した。「辻さんが特殊メークをやってくれなかったら出演しない」と直々に口説かれたという。

 チャーチル元英首相は丸顔がトレードマーク。オールドマンの顔は楕円(だえん)形な上にパーツの配置も違い、「最初に2人の写真を重ねたら、似ても似つかなかった」。張るシリコーンの柔らかさや形などの試行錯誤に半年を費やした。毎日3時間半かけて特殊メークを施し、セットを訪れたチャーチル氏の血縁者からも「本物だ」と認められた。「オールドマンは、メークと一緒に演技するために何が大事か理解し、チャーチルの独特な唇の動き方など研究したことも、組み合わせていた。彼でなければ成り立たなかった」と賛辞を贈って感謝した。

 07年と08年にも同部門で候補になったが、受賞は逃した。今回は本物と見間違えるほどそっくりに仕上げた高い技術が「三度目の正直」にして評価された。主演男優賞を獲得したオールドマンも「カズ」と辻氏の名前を挙げて感謝の気持ちを表現。授賞式後の会見でも「完璧なアーティスト」という言い回しで高く評価していた。

 短編アニメ賞候補だった米国在住の桑畑かほる監督が米国人の夫と共同監督した「ネガティブ・スペース」は受賞を逃した。