是枝裕和監督(55)の最新作「万引き家族」(6月8日公開)が、5月に行われる第71回カンヌ映画祭コンペティション部門に出品されることが12日、発表された。

 主演はリリー・フランキー(54)、共演は樹木希林(75)安藤サクラ(32)松岡茉優(23)ら。犯罪でしかつながることのできなかった家族を描き、真の絆とは何かを問いかけるオリジナルストーリーだ。

 昨年末から今年1月にかけて行われた撮影は、1月上旬に報道陣に公開されていた。

 監督の真骨頂ともいえる“家族”がテーマの今作は、東京・足立区の古民家とそれを完全再現した都内のセットで行われた(子役は夜間の撮影がNGのため)。細かいおもちゃから畳まで、全てを古民家から持ってくるという徹底ぶり。黄ばんだ冷蔵庫やうす汚れたこんろ、色あせたふすま-“田舎のおばあちゃん家”をほうふつとさせるセットが、家族の穏やかな空気感に拍車を掛ける。松岡が「実家とは違う場所なのにすごく居心地がよくて、息もしやすい。帰りたくないなって思っていました」と話すように、キャスト一同「居心地がいい」と口をそろえていた。

 現場の雰囲気は終始穏やかだった。元気に走り回る子役たちに、目を細める大人キャスト。安藤は「あたたかい現場だから、こういう寒々しい絵が撮れるんですかね」と話す。監督がじっくりと台本に向き合うのと並行し、ゆっくりと確かに、撮影が進んでいった。

 前作では法廷を舞台にしたミステリーに挑んだ是枝監督。今作ではこれまでも多く描いてきた“家族”に再び向き合ったが、その意図について監督は「『誰も知らない』(04年/ネグレクト事件が題材)を撮ったときやあの事件のときは、まだ“家族”ってものが信じられていたんじゃないかな。事件から30年、撮ってから15年近くたって、家族が置かれている社会の中でのありさまが大きく変わってきたと思うんですね。いろんな意味で、つながっているものが解けてきていると思うから、もう1度ここで、家族が今の社会に置かれたときに、どういうふうに見えるのか、どこが同じでどこが変わるのか確認したかった」と話した。

 是枝監督作品の常連であるベテラン樹木は、「最初の台本はわりかし、どっかで見たような聞いたような話で、これで大丈夫かなと思うんです。でも撮っていると、特に子役に対しての指示を見ていると、それがみんなの体を通して生きてくる感じが、この監督は違うんだなって。他の監督だとだいたい台本で読めちゃうんですけどね」と、是枝監督の才能を独特な言葉で絶賛する。

 主演を務めるリリー・フランキーは「いつも撮影早く終わんないかな、って思ってるんですけど、今回は終わるのが寂しいな、と。そういう気分にさせてくれるのも、是枝さんの現場は、どこからが撮影でどこからがプライベートか分かんないから。役作りとかじゃなくて、そういう空気になっちゃう、そういう魔法にかかる感じがします。すごくいい映画だなって、客観的に現場でぼーっと見ながら思っています」と、是枝監督が生み出す現場の魅力を話していた。

 念願の是枝組初参加となった松岡は、監督が指揮を執る現場を「水の中にいるみたい」と表現する。「(監督から)『こうしてほしい』『ああしてほしい』っていう要望がなくて、1行台本に加わったり減ったりが全て。自分で気持ちよくスイスイ泳いでいる気がしてたけど、温度管理も水質管理もしてくれていて、だからすっごく居心地がいいし楽しいし、幸せだと思ってるんです」と、ベテランに囲まれながらも心から現場を楽しんでいる様子だった。【杉山理沙】