フジテレビ系で25日午後9時からアニメ特番「ワンピース エピソードオブ 空島」が放送される。尾田栄一郎氏が「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載中の原作漫画「ONE PIECE」で人気のエピソードも、物語の長大さ、難解さで知られる「空島編」を130分に凝縮し制作した。フジテレビ編成部の狩野雄太プロデューサー(以下、狩野P)のインタビュー第2回は、歴代最長の5年、プロデューサーを務める狩野Pに、挑戦的な物作りへの考え方と「ワンピース」への思いを聞いた。【聞き手・構成=村上幸将】

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 原作でも前半部の重要なエピソードである「空島編」を新たな形で世に送り出すにあたり、制作陣にも強力な面々が集った。1999年(平11)10月20日にスタートしたテレビシリーズ(日曜午前9時半)の初代シリーズディレクターで「空島編」も担当した宇田鋼之介氏が総監督、えんどうてつや氏が監督、五十内裕輔氏が総作画監督、佐藤雅将氏がキャラクターデザインとアニメ「ワンピース」のファンになじみ深い面々がそろった。新たに書き下ろされたビジュアルは原点を思わせる。

 東映アニメーション制作、フジテレビ系で放送と、「ワンピース」と同じ座組で3月25日まで放送された「ドラゴンボール超」など、昨今のアニメには映画かと見まごうばかりのビジュアル、キャラクターの動きに驚かされる作品もある。今作品も、オリジナルのテレビシリーズが放送された当時の技術では描けなかったであろう、流麗な映像への期待が高まる。

 狩野P 今回、宇田さんが入っているので画は(初期に)戻っていますね。初代ディレクターの方なので…ある意味、それが全てです。いつも、やっていただきたいんですけど、なかなかお忙しい方なので。画は、すごい迫力が出る…見やすいと思うんですよね。アニメの制作は10班くらいでやっていて、レギュラー放送の制作班と互いに刺激を受け、切磋琢磨(せっさたくま)しています。

 テレビシリーズで放送されたエピソードを、新しい作画、声優の演技の新規録音、新たな切り口などで完全新作として制作するエピソードシリーズだが「空島編」はその長大さ、難解さから「誰も挑戦していない」(狩野P)“聖域”だった。そこに強力な布陣で挑む裏には意地があった。

 狩野P (ファンが内容を)知っているお話を放送するって…総集編かよ? と言われるのが嫌なんですよ。オリジナルのテレビアニメシリーズでもやったこともあるんですけど「ワンピースらしいワンピースって何?」ということを考えると、やはり原作なんですよね。今回、原作から離脱したという人も割とよく聞く「空島編」なので勝負だなと思いました。

 一方で、担当プロデューサーとして毎週、放送されるレギュラーのテレビシリーズにも「毎週、やるって偉大だなと思うんですよ」とリスペクトの思いがある。そして「クオリティーが上がっていますね」と口にしたのが、並行して担当する「ゲゲゲの鬼太郎」(日曜午前9時)だ。

 狩野Pは、「ドラゴンボール超」の終了後、4月1日から第6シーズンがスタートした「ゲゲゲの鬼太郎」でも、おなじみの猫娘を8頭身にしてアニメ業界、ファンを騒然とさせた。現代風のルックス、スタイルは“猫お姉さん”と言っても過言ではないほどで放送開始当初は違和感を訴える声も少なくなかった。そこにもチャレンジャー精神があった。

 狩野P 見たことのないことを、やりたいじゃないですか? 見たことのあるものだったら、わざわざ新しくやらなくても、それでいいと思っています。勝負ですよね。(アニメを)6回もやっているから、どの期のどの猫娘か分からなくなってきているというのもあったので、分かりやすくした方が良いよね、ということです。それと、おかっぱで後ろを刈り上げている女の子って、今の時代において、どうなんだろうと…もう少し、違ったものも、あるんじゃないの? という話もありました。水木しげる先生の事務所からは「任せます」と言っていただきました。

 一方で「ワンピース」同様、原作へのリスペクトの思いも込めている。

 狩野P 水木先生の作品には、アニミズム(自然崇拝)だったり戦争体験だったり、そういう要素があるんですが、現代はどんどん薄れていっている…そうしたものを、なくさないように取り入れながら、現代性もどう入れるの? というのが大事だと思いました。あと、やっぱり朝のアニメだから、子どもを怖がらせたくなかったですね。

 狩野Pは「世にも奇妙な物語」などドラマ制作にも携わり、アニメにドラマの作り方を応用しオムニバス風にするなど、1つのジャンルの制作手法を、他ジャンルにも回して応用する“発明”が面白いと語る。ただ「ONE PIECE」からは学びが多いという。

 狩野P 尾田さんは、集英社の担当編集者の方から聞きますが、追い詰められると覚醒するそうで。初期の頃から違う次元に、ドンドン覚醒していっている感じがしますね。その世界の中に、憑依(ひょうい)しかかっている気もして…すごいと思いますね。冷静に考えると正直、ルフィは「空島編」の最初はただ空島に行ってみたいくらいだったし、何もしなくて良かったと思うんです。でも、黄金の鐘を鳴らしに向かっていく様は感動的で泣けちゃう…そこに漫画家・尾田栄一郎の作家性があると思うんです。絶対にマネできないと思っているので。

 フジテレビで99年10月20日に放送がスタートして20年。担当プロデューサーとして、歴代最長の5年になろうとする狩野Pに、今の思いと今作の見どころを聞いた。

 狩野P 20年も続いた大事な「ワンピース」なので、絶対に途切れてはいけないんですね。死ぬ気でやるしかないなと思いますし。原作の力を信じる…だって、「空島編」も、難しいとは言われていますけど、素晴らしいエピソードだと思います。これまでご覧になっていただいた方には、あれがない、これがないとかあるのかも知れないですけど…。原作から離脱しなかった方でさえ、多分、ちょっとは難しかったと思っているであろう「空島編」の“料理”はギリギリまでやっています。このクオリティーで良かったかどうかは、オンエアで確認していただきたい。(難解な)ひもは1本、1本ほどいた…挑戦でした。担当は5年目…来年くらいで、歴代最長になるんですよ。「ワンピース」は残していきます。

 狩野Pが挑戦、格闘した新たな扉が間もなく開く。