樹木希林さんが主演を務めた映画「あん」でメガホンをとった河瀬直美監督(49)が16日、希林さんの訃報を受けてコメントした。以下、全文。

 

希林さん

あなたと過ごした様々な光景を思い返しています。

今年に入って希林さんの事を想う時間が増えて、何度か電話をして直接お話をしました。

具合が良くないことがニュースで知らされても、どこまでも元気で毒舌で、変わらない希林さんがそこにいました。

希林さんはそうして私たちの前から弱ってゆく自分の肉体を想像できなくさせ、いつまでもあの元気な笑顔のままで私たちの中に永遠を創り上げたかったのだと、悟りました。

あなたは、最期まで女優でした。

昨日、ふと、希林さんを想いました。

連絡しようとしたけれど、映画「あん」の徳江さんのように、希林さんは、わたしの心に直接訴えかけるように、そこでただ微笑んでいました。

ああ、永遠だ。この笑顔はわたしの中で永遠に生き続けるのだ。

この時代を、その類いまれなる才能と、そして多くの努力により、日本を代表する女優として君臨し続けた樹木希林さんが、最後に求めたものは、なんだったのか・・それを今考えています。

「そんなに難しいこと考えてないわよ」と背中をたたいて一喝されそうですが、

彼女が夢見た世界には、日本の才能ある俳優がボーダーラインを軽々と越え、独自の意志による表現をまっとうする姿があったのではないでしょうか?

それを証拠に、そのような姿勢で表現をまっとうしようとしている俳優さんを紹介してくださることもありました。

また、「日本の俳優さんは河瀬組を体験するべきだ」と発言してくださる機会もありました。

そうして、認めていただける現場をご一緒したことは、間違いなくわたしの財産です。

樹木希林さんは、監督の伝えたいことを瞬時に理解し、具現化できる真の俳優でした。

最後まで女優を演じ続ける姿勢。その潔さと儚さを、今、かみしめでいます。

耳元に響く「河瀬さーん、あなた、がんばってるわね」と、いつも背中を押してくれたその声を思い返しています。

そして、電話の最後にはいつもわたしの家族のことを気遣ってくれました。

だから、今日は、最後にわたしも希林さんのご家族のことをおこがましくはありますが、労いたいと思います。

ややこさん、最期には希林さんをおかあさんとして看取ってくださってありがとうございました。

希林さん「ややこが居てくれて心強い」と、わたしには静かに語っておられました。本当にそのとおりだと思います。

立派な女優樹木希林から解き放ち、ひとりの優しいお母さんのご逝去に際し、心よりご冥福をお祈りいたします。

希林さんが扮した「あん」の徳江さんの最期の言葉を送ります。

「私たちはこの世を見るために、聞くために、生まれて来た。だから、何かになれなくても、私たちには、生きる意味があるのよ」

映画監督 河瀬直美