まだ、ネットもない平成の初めから連続ドラマを取材している。視聴率、キャスティング、脚本、スタジオ、ロケ…年とともに忘れてしまったことは多くても、あらかたのことを知ってるつもりでいた。

だが、フジテレビ系の月9ドラマ「SUITS/スーツ」(月曜午後9時)に主演している織田裕二(50)をインタビュー取材して「そうだったのか!」と今更ながら気付かされたことがあった。

連続ドラマの制作の過程を聞くと、織田は「基本的には、まず監督なんですよ」と、自身の気付いたことや意見をフィードバックするのが演出家だという。「でも、連ドラってめんどくさいのは、監督が1人じゃない。1話ごとに変わったりするから、気が付いたことを監督に話しても、無駄になることがある」という。だから「SUITS」の場合は「先のことをいろいろやっている宙さんに質問したり、話したりする」という。制作会社の共同テレビの小林宙プロデューサーで、いつも収録現場にいる。

それから聞いたのが、2、3人いる監督についてだ。織田は「基本はチーフの監督です。まずはチーフの監督が1話全部を作ってみて、そこがベースの設定になるんです。でも、セカンドの監督になると、全く変わるんです。変にトレースされると中途半端な作品になってしまう」と言い切った。そして「それぞれの監督は、それぞれの持ち味があるんで、同じことをする必要はないと、僕は思っているんです」と断言した。

なかにはそこを気にする監督もいるらしいが、織田は「無視していいです」と話すという。「基本設定の決め事だけ守れば、あとは全部変えちゃえばいいじゃないですか。いつも面白いのに、なんで今日の話はこんなに笑えないし、つまらないんだろうと思うときは、たいがい監督が、そういうセンスじゃない人なんですよ。だから、自分の得意な演出をやればいいのにと常に思うんですよ」と言う。

「笑わすのが苦手という監督はシリアスに。おーっ、今週はこんな風になっているよ、っていう驚きがあって、あきない。お客さん(視聴者)も絶対に、それでいいと思う。連ドラってそれでいいと思う」。過去には前の監督と次の監督の言うことの違いに、とまどったこともあったという。「でも、同じにしたいんだったら、1人の監督で通してやればいい。違っていいんだと。だって、持ち味が違うんだから」。

織田は子供の頃、日本でも放送されていた米国の戦争ドラマ「コンバット」が大好きだったという。「タッチが、全く変わっていくんです。同じ登場人物なのに、ある時は敵との友情物語になったり、ある時は戦闘がない穏やかな回だったり。でも、俺は『コンバット』が好きなんですよ」。

「SUITS」も1、2話を撮った監督と3、4話の監督は「全然、センスが違いますからね」。チーフの土方政人監督は60代、セカンドの石井祐介監督は40代。「年が20歳も離れてる。お客さんは、そんなことを考える必要はないんですけどね」。

連ドラを見る楽しみが、またひとつ深くなった気がした。