先月26日にフジテレビ新社長に就任した遠藤龍之介氏(63)が、このほど日刊スポーツの取材に応じた。視聴率が低迷する厳しい環境の中で、かつての栄光を取り戻すため、全社員の先頭に立って奮闘する決意を示した。芥川賞作家の父・遠藤周作氏(96年没)についても語った。

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ナンバー2の専務から社長に就任。フジテレビのトップに立った。「今までは社長補佐の立場とはいえ、自分の担務があった。これからは全部を見なくてはならない。気を引き締めてやらなくてはいけない」と話す。

かつて栄華を極めたフジテレビも、ここ10年ほどは視聴率が低迷している。「慢心と保守性っていうんでしょうか。昔のフジテレビはマネジャーからタレントから放送作家まで、みんなが来てくれた。そうしていろいろな話ができた。そういうオープンな気風を取り戻したい」と言う。

現在のテレビマンが抱えている問題として「今はインターネットの動画配信、とか、いろいろ作業も増えて、昔のように遊んではいられない。でも、出口がいくつあっても、コンテンツが楽しくなければ、お客さんは見てくれない。作り手が面白さの一番近いところにいる局であることが大切。番組も、作り手も『面白いね』と言われなくては」と分析している。

芥川賞作家・遠藤周作氏の息子。これまでも度々、メディアに登場して発信してきた。「私にどれだけの媒体価値があるのか分かりません。広告塔じゃないけれど、できるだけ取材も受けさせていただく。番組にも要請があれば出ますよ。自分からは売り込みませんが」と笑う。

低迷した視聴率は、底を打った感もある。「月曜9時のドラマとか、部分的には数字が戻った。これが本格的な波に乗るには、まだまだいろいろなことをしなければならない。昔は世帯視聴率だけだったんですけど、今はいろいろな指標がある。作り手にとっては難しい時代。それでも、若い人に向けて番組を発信していくのは変わらない。番組がある種の社会現象になって、年配の方も見てくれるようになる。若い層を中心に爆発力のあるような形が理想的」と話している。

昨年、「めちゃ×2イケてるッ!」「とんねるずのみなさんのおかげでした」という、長年の人気を誇ったバラエティー番組を終了させた。その後継人気番組は、まだ育っていない。NHKの人気バラエティー「チコちゃんに叱られる!」は、フジテレビの番組で活躍したスタッフ、出演者が作り上げた。「バラエティーに元気になってほしいけど、コンプライアンスの問題にも気をつけなければならない。私の持論なんですが『面白さは平準化できない』というものがある。だから目利きが大切だと思う。これから面白くなるものにベットしていかなければ、社会現象は起きない」。

元々は映画会社を志望。フジテレビでは編成マンとして活躍して、03年のライブドアによる買収騒動では広報部長として脚光を浴びた。「70数日の事件でしたが、渦中にいるとものすごく長く感じた。会社は誰のものかという意味では、ものすごくエポックメーキングな事件だった。もちろん株主さんのものではあるけど、僕としては視聴者、従業員を含んだステークホルダー(利害関係者)のものだと思いたいですね」。

フジテレビ入社が決まった時に父の周作氏に言われた。「昨日、海辺のレストランに行ったけど、砂浜では足を取られため舗装路を歩いた。俺は小説家として砂浜を歩いてきてたから振り返ると足跡が見える。お前は、これからサラリーマンとして歩きやすい舗装道路を歩いていくんだ。20年、30年たっても、お前の足跡は残っていない」と。「面白い人でした」と龍之介社長。

フジテレビの社長になった今、振り返る軌跡には何が見えるのか。そして、その先には何を見据えているのか。「楽しくなければテレビじゃない」の原点に立ち返り、新社長が繰り出す新たな一手に注目が集まる。【小谷野俊哉】

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◆遠藤龍之介(えんどう・りゅうのすけ)1956年(昭31)6月3日、東京生まれ。81年慶大文学部を卒業して、フジテレビ入社。01年7月編成制作局編成部長、03年6月広報局広報部長。06年6月広報局長。07年6月取締役。10年6月常務取締役。13年6月 専務取締役。17年6月専務取締役、社長補佐等担当。