映画の配給や出版、映画館やレストランの経営などを行う「アップリンク」の元従業員5人が、代表の浅井隆氏(65)からハラスメントを受けたとして16日、東京地裁に同氏と同社に対して損害賠償などを請求する訴訟を起こしたことを明らかにした。原告は同日、都内で開いた会見で、浅井氏から「議論する余地はない。会社に残るか去るか」などと高圧的な言い方で退職を迫られたと主張。また、他の社員が浅井氏に逆らうことが出来ないような労働環境だと強調した。

2年半にわたり契約社員として配給宣伝の業務に携わってきた浅野百衣さん(31)は、入社したその日から浅井氏の暴力的な発言があり、長時間勤務も続いたと指摘。「業務時間中に涙が抑えられなかった。他のスタッフも泣いていた。上司もサポートしてくれなかった」と明かした。その上で、年末年始の休みや夏休みがなくなったことなどを含め、労働条件の改善を浅井氏に求めたものの、3時間以上の話し合いの結果「議論する余地はない。会社に残るか去るか」と返答されたと説明。「沈黙、もしくは退職の2つの選択肢しか与えられなかった」と訴えた。

錦織可南子さん(26)は、学生時代にアップリンクに入り、1年半後に社員に登用されて合わせて4年半ほど勤務したが、社員になってから浅井氏の度重なるパワハラに遭ったと説明した。19年8月には、正当な理由がないにも関わらず正社員から有機雇用契約への変更を宣告され「条件をのめないなら、辞めてもらうしかない」と退職に追い込まれたという。また、浅井氏が同僚に対して「殴るぞ」などと暴言をはいたり、怒鳴っていたことも明かした。

17年11月からアルバイトとしてアップリンクのカフェレストランで働いていた鄭優希さん(25)は「在日コリアン3世で、心ない差別をしばしば受けたから、アルバイト選びを慎重にしていた。人種差別の問題を扱う映画を萎縮せず公開しているアップリンクがスタッフを募集しており、ここなら安心できると応募しました」とアップリンクで働いた経緯を語った。その上で「実際に働いてみると、浅井氏に対して、すごくビクビクしているような社員がいたり、同氏の威圧的な態度でオフィスが静まり返ってしまうような、異様な雰囲気を感じることがよくあった」と、アップリンクという会社の外面的な印象と、社内の実情には大きな開きがあると訴えた。

そして「私自身、他の社員からモラハラ的な態度を受けて、すごく悩んでいたが、他の上司も浅井氏に対して萎縮し、もの申せない様子があったので、気軽に相談できる環境が全然なかった。他のスタッフに対する浅井氏の態度を見ていると、心が苦しくなって、自分も傍観者になっているんじゃないかということが耐え切れなかった」と吐露した。

その上で、鄭さんは「アップリンクは、さまざまな人…特にマイノリティーから、たくさんの期待を背負っている場所。そういうふうに、人々がエンパワーされる(夢や希望を与え、勇気づけられる)ような場所で、どうして声が押し殺されてしまうような構造が出来ているのか納得いかない」と主張。「私自身、アップリンクで働いている間は、自分で自分を偽らなければならなかった、違和感だらけの時間だったと思っています。パワハラを見て見ぬふりは、もうしたくない…皮肉にも、それがアップリンクで学んだこと」と訴えた。