山田洋次監督(89)が29日、都内のイイノホールで行われた映画「キネマの神様」(8月6日公開)完成報告会見で、主演の予定だった志村けんさん(享年70)が新型コロナウイルス肺炎で1年前のこの日、亡くなり、代役を務めた沢田研二(72)に感謝した。

沢田は劇中でギャンブル漬けで借金まみれの上、妻の淑子(宮本信子)と娘の歩(寺島しのぶ)にも見放されたダメ親父のゴウを演じた。若き日のゴウ(菅田将暉)は助監督として、映写技師のテラシン(野田洋次郎)、スター女優の園子(北川景子)、撮影所近くの食堂の娘淑子(永野芽郁)に囲まれながら夢を追い求め、青春を駆け抜けていた。

当初は志村さんと菅田将暉(28)とがゴウの過去と未来を演じる予定で、撮影は20年3月1日にクランクインしたが、志村さんが新型コロナウイルスに感染し、同月上旬の撮影を前に肺炎治療のため降板し、出演を辞退。若き日のゴウのパートは同月末までに撮影が終了したが、同29日に志村さんは急逝。同4日から感染拡大予防の観点から撮影が一時、見合わせられた末、志村さんと多くの共演経験がある沢田が代役として、14年ぶりに映画に出演すると同5月15日に発表された。

山田監督は、代役を務めた沢田について「ずいぶん、彼だって悩んだと思いますよ。何て言ったって、志村けんさんは、日本を代表するコメディアンで、沢田さんは日本一のいい男と言っても良い。対照的な2人」と語った。その上で「2人は、かなり仲が良くナンセンスギャグをやっているのを、僕は見ていて、好きで、沢田さんという天下の二枚目が志村さんで書いた役を表現するのは可能なんじゃないかと、かけて彼に依頼した」と起用理由を重ねて説明した。

そして「志村さんへの友情もあったんだろうな…思い切って引き受けてくれた。ずいぶん、長いせりふもあるけれど…驚くくらいスラスラ言った。前の日から稽古したんだろうな…面に見せないけれど相当、役を作り上げてきてくれたんだと思う」と沢田の役作りを称賛。「天下の二枚目である彼が、賭博とアルコールの依存症で、女房子どもをほっぽらかす役をやった。若き日を演じる菅田君も二枚目…共通して良かった面もあった」と語った。

沢田は、志村さんの代わりとしての映画への出演であり、あくまでも映画本編への出演のみが自身の役目であるという考えがあり、製作、配給の松竹とも当初から合意し、この日のイベントを含む宣伝活動の予定はないという。