BS日テレ「深層NEWS」(月~金曜午後10時)の隔週金曜を担当する鈴木あづさキャスター(46)が、水野梓の筆名で社会派ミステリー小説「蝶の眠る場所」で小説家デビューした。日本テレビ報道局経済部のデスクとして財務省と内閣府を担当する現役の報道記者が、なぜ小説という手法をとったのかを聞いてみた。

「蝶の-」は、テレビ局のドキュメンタリー番組の女性ディレクターが、すでに犯人に死刑が執行されている殺人事件を、冤罪(えんざい)だと証明していく物語。いじめ、犯罪者の家族の苦悩、LGBT等も描かれている。

テレビ局の報道記者・榊美貴は、ひとり息子の2歳の誕生日を祝う最中に、呼び出され10歳の少年の転落事件を取材に行く。「いじめによる自殺」を疑い向かった病院で出会った少年の母・結子は「殺された」とつぶやく。結子の養父は約20年前に起きた母子殺害事件の犯人として逮捕され、無実を訴え続けたもの死刑になっていた。部下のミスの責任を負う形で報道局デスクから、低視聴率の深夜ドキュメント番組に異動した美貴は、冤罪に向き合い真相を明らかにすることを決意する。

水野さんは「テーマとしたのは『人は人を許せるのか』ということ。死刑という不可逆的な究極の刑罰は、2度と後戻りできない。決して許されない罪が、世の中にあるのかを考えました。人を殺したら絶対罰である死刑を受けさせるのが世の常ですけれども、人が本当に人を許すことができないのかということを書いてみたいと思いました。自分自身、その答えを見てみたいと思って書いてみました」と言う。

日本テレビには、誘拐殺人事件で無期懲役となり、逮捕から18年後に無罪となった冤罪事件、足利事件の報道で知られるジャーナリスト清水潔氏がいる。

「実は『NNNドキュメント』で清水さんと一緒に作った『飯塚事件』を元に書いたのが、この小説。冤罪を主張していた、久間三千年という男性が死刑になっています。今回も、清水さんに監修してもらいました。私が日テレで、最も尊敬している先輩の1人です」

1999年(平11)に日本テレビ入社。ジャーナリストを志望したのは子供の頃からだ。「小学生の時から新聞委員。新聞記者になりたかったんです。『蝶の-』の主人公と私は別人格ですが、私もドキュメンタリー番組をやっていたことがあります。テレビのニュースは、とにかく早く出すことが重要な使命の一つですが、ドキュメンタリー番組は事件のその後を描くことができるメディアなので、私はすごく好きでした。『NNNドキュメント』の元々のコンセプトは『声なき声をすくい上げる』です。記者になると1分でも早くオンエアしようという強迫観念にとらわれがちですが、むしろ一番小さな声なき声をすくい上げること、自分が拾わなければ世間の人が聞くことがなかったか弱き声を掘り起こし、真実を明るみに出すというのが報道の使命ではないかと。こうした地道な調査報道が報道の神髄だと思います」

早大文学部の卒業論文は小説。報道の現場に20年以上も身を置きながら、今回の作品では小説というフィクションの形を取った。

「ずっと20年以上報道にたずさわっていて、事実でしか伝えられないことがある一方で、フィクションでしか伝えられないことがあると思っていました。カメラというのは私たちの主観で切り取り方によって、対象物をどのようにでも見せることができてしまう。だからこそ、客観的に公平中立に物事を伝えようとするんですけど、それだけでは伝えられないことが多すぎて、もどかしさを感じるようになったんです。例えば、事件とか事故の裏側にある人々の感情であるとか、起きた背景とか理由とか。細部を突き詰めていけばいくほど、そこに普遍的な真実が宿る。その真実に行き着くまで、マスメディアはカメラを回し続けられない。あと1歩で真実にたどり着けたのに、というもどかしさが募ってきた。それで、その先を書けばいいんだと思って、書き始めました」

(続く)

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◆水野梓(みずの・あづさ)1974年(昭49)8月15日、東京都出身。本名鈴木あづさ。早大在学中に米国オレゴン大ジャーナリズム学部に留学して卒業。帰国後、99年に早大文学部卒、日本テレビ入社。社会部、中国総局特派員、国際部デスク、ドキュメンタリー番組のディレクター、プロデューサーなどを経て、現在は経済部デスク。