1973年(昭48)度のNHK朝の連続テレビ小説「北の家族」でヒロインを務め、82年に発表した小説「通りゃんせ」が芥川賞候補になるなど小説家としても活動する女優高橋洋子(68)が、大手芸能事務所スペースクラフト・エージェンシー入りした。

その高橋がプロデューサー、監督、脚本、主演を務めた映画「キッド哀ラック」が完成し、過去に出演した代表作とともに9日に公開されることを受け、5日、都内で会見が開かれた。

高橋は、スペースクラフト・エージェンシー入りした理由について「1人の時があり、事務所を探していました。40年前に知り合った人の紹介で」と説明した。次に「キッド哀ラック」の製作理由について、出演した16年映画「八重子のハミング」の佐々部清監督が、20年3月に急逝した際に連絡をしてきた、撮影の早坂伸氏から、若手映画監督の企画への協力を依頼されたものの、その監督が降りたため自ら監督、脚本を務めたという。

監督作としては、中央公論新人賞を受賞した81年の小説家としてのデビュー作「雨が好き」を83年に映画化し、監督して以来38年ぶり。物語は、東京でバーを経営し気丈に暮らしていたものの、ふいに実家に帰ってきたノブ子(高橋)に、認知症の母の介護をする姉ケイ子(新井晴み)が戸惑う、そんな老いていく姉妹と母を描く。

撮影は「この街だったら安く撮れる」と栃木市で行った。高橋は「まず、シナリオハンティングに行きました。台本が出来ましたら次にロケハン。ただ姉妹で暮らしている、家を見つけていなかった。見つからなくて、見つからなくて…。市内から、遠いんです」と振り返った。

脚本は、94歳の母親との関係をベースに約2カ月で原稿用紙25枚分を書き上げたという。「母には、女優はきらびやかにして撮影所に行くなどのイメージ、固定観念があった。『東宝撮影所に行くのに、そのジーンズ!?』と怒られたり…逃げたかった」と、母との関係を苦笑交じりで振り返った。その上で「母親の育て方…褒められたい、でも苦しいというテーマのドラマも多くなった。母と実の娘の間には、血がつながってもあらがえない愛情、憎しみがあると思う。そこが底辺。母は入院していて明日、会いに行きますが、まだ映画は見ていません」と語った。劇中で、自身が演じる主人公のノブ子が「お母さんと決着がついていない」と口にするセリフがあるが「私も母と決着はついていません。親って面倒くさいわよね」と笑った。

38年ぶりに監督としてメガホンを取ったことについては「カメラのこっち側にいたので『ヨーイ、スタート』は、かけていません。大きなトラブルはありませんが、移動に時間がかかったりとか。ロケハンの方が大変…3泊4日、スプリントレースのようなスピード感だった」と振り返った。

スペースクラフト・エージェンシー入りした先の芸能活動について、高橋は「何が始まるか、まだ分からないですけど、おっちょこちょいな役がいい。私のイメージは悲劇が多い。ちょっと笑える役もやってみたい。もちろん、悲劇で泣きたいです。喜怒哀楽を出したいです」と言い、笑みを浮かべた。

◆高橋洋子(たかはし・ようこ)1953年(昭28)5月11日、東京都生まれ。72年に都立三田高を卒業後、文学座俳優研究所へ入団し、映画「旅の重さ」(斎藤耕一監督)のヒロインとしてデビュー。74年には映画「サンダカン八番娼館 望郷」に出演し、北川サキ役を演じた。同役の晩年を演じた田中絹代さんは、ベルリン映画祭で女優賞(銀熊賞)を受賞し、作品も米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。同年に出演した日本テレビ系「傷だらけの天使」では、エランドール新人賞を受賞。16年には、88年「パイレーツによろしく」(後藤幸一監督)以来28年ぶりとなる映画「八重子のハミング」に出演など、出演作多数。