平凡な北条家の次男坊から時の権力者へ-。小栗旬(39)が北条義時役で主演するNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜午後8時)が1月9日、スタートした。謀略渦巻く鎌倉時代、権力争いに巻き込まれていく義時同様、葛藤を抱えつつ役に向き合っている。今年不惑を迎えるが、39歳の今を役さながらに「惑いまくってます」と飾らず表現する。
★自然体で挑む主演「北条義時」
自然体、という言葉がしっくりくる。日本を代表するドラマ枠の座長を務める心境を聞かれ、こう答えた。
「あんまり何もしていないと思います。今回は自分より年齢が上の方たちが多いですし、自分が引っ張っていこうとせずとも、それぞれの現場の居方がある。みんな同じ方向を向きましょうよ、ということをしなくていいのかな。本当に楽ちんな感じで過ごさせてもらってます」
昨年6月に撮影が始まり、義時のことを考える日々が続いている。
「北条義時ってどういう人なんだろう、なんでこれをしたんだろうと1年間考えることってなかなかない。向こうあと1年弱そのことを考えているのかと思うと、俳優としては豊かな時間を過ごさせてもらっていると思います。生活みたいになってくるので、ミュージカルをロングランで2、3年やってる俳優さんはこういう気分でお仕事されているのかな」
初回では、個性豊かな家族に振り回される義時をコミカルに表現。平凡な少年は源頼朝(大泉洋)との出会いで人生が大きく変わり、陰謀、暗殺何でもありの権力闘争に加わっていくことになる。
「彼は本当は表舞台に出たい人間ではなかった、とか。米を数えている方が自分の人生としては豊かだと思っていた彼が、決断しなければならない環境に追い詰められていく。そういうところを見ていただけたら、北条義時のダークなイメージが変化していくのかなと思います」
一方で、義時に思いを巡らせると「やっぱりつらいんですよね」と苦笑する。
「頼朝さんを立てれば立てるほど、なぜ権力争いで人を殺さなければならなかったんだろうという瞬間に出会わなければならなくなる。それがずーっと苦しいですよね。自分が亡くなるまで心休まる瞬間が片時もなかったんじゃないかと思うと、かわいそうだなとか…かわいそうだなと思うことを彼らはどう思うんだろうとか…。今のところ、自分が渦中にいてしまってまだ見えてないかもしれない」
時代劇の魅力は「振り幅」という。
「何で時代劇をやるのかと言われたら、一番は振り幅が大きいこと。歴史なので変えてはいけない部分はあるけど、じゃあどうだったんだろう、ということをめちゃくちゃ遊べるのが時代劇だと思う。人間ドラマとして楽しい時もあれば苦しい時もあったり、だけどその中で笑ってしまうようなシーンがあったり。ラブシーンをやってもいい。そういうことをできるのが楽しいと思っているので」
▼▼後編には「脚本・三谷幸喜氏からのメール」「友人・嵐松本潤とのやり取り」▼▼
★マスクに毎日メッセージ
ストーリーが進むほどに陰惨な展開が予想されるが、現場は和やかそのもの。コロナ対策として欠かせないマスクに、毎日メッセージを書いているという。
「途中からネタがなくなってきて、誰かのその日のせりふを書いたりして。頼朝さんのせいでものすごくバタバタするシーンを撮る日には『全部大泉(洋)のせい』って書いて(笑い)。意外とスタッフの皆さんが楽しみにしてくれているので、始めちゃった限りは、マスクを外していいよと言われる日までは続けないとな、という状態になってます」
1話と2話を見たという脚本三谷幸喜氏の反応も明かす。
「『非常に今後が楽しみになる義時像でした』とメールをいただきました。書いている三谷さんにそう言っていただけると、今後迷わずやっていけますとお話ししました」
「鎌倉殿」の次の大河は、嵐松本潤(38)主演の「どうする家康」に決定。05年放送のTBS系ドラマ「花より男子」で共演以来の友人関係だ。
「自分がこういう形でやらせてもらった次が彼だっていうのは感慨深い。お互い頑張ってきてよかったねと、そんな感じがありました」
一度、松本が撮影現場を訪れたことがあるという。「タイミングが合えば乗馬に行こう」と、そんな話もしている。
「彼は彼で準備を進めているみたい。『大河の現場どう?』なんて言われて、楽しくやってるよと。『そうか、俺も楽しくできたらいいんだけどな』みたいな。自分もクランクインするまではどこか不安を感じていたので、その気持ちは分かるなと。その中に今いるんだろうな」
★コロナ禍で「安定した」交流
制作統括の清水拓哉チーフ・プロデューサーは、小栗を「人望がすごい人」といい、義時との共通点を「器の大きさ」と表現。近年は後輩から「尊敬する俳優」に挙げられることも多くなった。周囲の評価をどうとらえているのか。
「すごくそういう風に言われるから、最近恥ずかしいです。言うほど人望ある方だとも思わないし。そうやって楽しませて『また小栗さんに会いたい』みたいなことになっているかというと、そんなでもないですからね」
コロナ禍で人との交流は制限されたが、一方で「安定した」と話す。
「コロナで人に会わなくてよくなったから、少し楽になりました。それまでは、人に会わなければいけないという不思議な強迫観念みたいなものを持っていた感じがある。最近は本当に人と会わなくなったし、会う人は会う人で限られる状況になってきた。自分としてはすごく安定した感じになってきましたね」
人付き合いで心がけていることを聞いてみた。
「変なうそをつかないということ。喜ばせるようなうそはありだと思うんですけど、人を悲しませるようなうそは誰も得しない。心がけていることはそれくらいしかないんですけどね」
さらに自己分析する。
「あと、本当に無防備みたいなんです、僕。それをみんなが面白がってくれた結果、人の関係が成り立ってるのかなと思うところはあります。身近なやつらからすると、下手に大切なことを俺に話すと、みんなにしゃべっちゃうと。何が話していいことで何がいけないことなのか、忘れちゃったりするタイプなんですよ(笑い)」
迷いながらも北条義時に向き合う日々だ。12月末の放送終了を迎える頃、「不惑」の40歳を迎える。
「今現在、惑いまくってます。だから本当に40で不惑になれたらいいなと思います。『四十にして惑わず』だっけ? そうなるために、39まではまだまだ惑っておこうと思います」【遠藤尚子】
▼制作統括を務める清水拓哉チーフ・プロデューサー
多くの俳優さんが慕うことで有名な小栗さん。現場では静かに全体を見守ってくれてる感じが印象的で心強いです。毎日、小栗さんが帰る時の表情が気になります。主演の顔色をうかがうというより、小栗さんの献身に応えたい、そういう思いです。スタッフもそう。夏にはキャップ、冬にはニット帽を全員に差し入れて下さいました。番組名が入ってますが、みんな「チーム小栗の一員」という思いでかぶっているんじゃないかな。
◆小栗旬(おぐり・しゅん)
1982年(昭57)12月26日、東京都生まれ。子役としてキャリアを開始。05年、TBS系ドラマ「花より男子」の花沢類役でブレーク。主演映画は「クローズZERO」シリーズ、「銀魂」シリーズなど。昨年はTBS日曜劇場「日本沈没-希望のひと-」に主演。184センチ、血液型O。
◆「鎌倉殿の13人」
鎌倉時代に2代執権として実権を握った北条義時(小栗)が主人公。鎌倉幕府将軍を支えた13人の家臣団たちによるパワーゲームを描く。源頼朝の死後に内部抗争を繰り広げ、13人の中で最も若かった義時が権力を手に入れることになる。