「茜色に焼かれる」(石井裕也監督)に主演した尾野真千子(40)が主演女優賞、劇中で主人公の息子を演じた和田庵(16)が新人男優賞と“母子受賞”を成し遂げた。尾野は「自分の受賞も、とてもうれしいけど、母子で取れることが、なかなかない。(本当の)母じゃないけど、母の気持ち…1番うれしかった」と声を震わせた。

「茜色に焼かれる」は、尾野が演じる田中良子が7年前に理不尽な交通事故で夫陽一(オダギリジョー)を亡くしながら、和田が演じる中学生の息子純平をひとりで育てる物語。コロナ禍で経営していたカフェが破綻し、花屋のバイトと夜の仕事の掛け持ちでも家計は苦しく、そのせいで純平はいじめに遭うが、社会的弱者として世の中のゆがみに翻弄(ほんろう)されながらも信念を貫き、たくましく生きる姿を描いた。

和田が「尾野さんと一緒に母子受賞。夢にも思っていなかった。何て言って良いか分からない…うれしい」と緊張でガチガチになりながらスピーチすると、尾野は目に涙を浮かべた。そして「苦労したでしょう? 分からない中、ああしなさい、こうしなさいと逐一言われる。私のように自由奔放な人間もいたり、監督のようにどうするんだという注文を付けてくる人もいる」と和田をねぎらった。

尾野は「ヤクザと家族 The Family」で、綾野剛が演じたヤクザの山本賢治の恋人・工藤由香を演じたことでも評価された。「やっぱり、賞をいただくのは本当にうれしいですね。気持ち、感情、いろいろな者が伝わるように演じたい。ここの香りはいい。また、ここに帰ってこられるように頑張りたい。出会えて良かったです。映画そのものも、そうですけど、いろいろな方がいてくれて良かった」と感慨深げに語った。

特に「茜色に焼かれる」で演じた田中良子への思いは深い。同作は4年ぶりの主演映画となったが「何年ぶりだろう。(役が)憑依(ひょうい)した。(近年は)憑依(ひょうい)しておかないようにしようというのが強かった。気持ちがグッと入って抜けられない…久しぶりにそういう感情になり気持ち良かった」と振り返った。その上で「コロナ禍もあり、一丸となって作っているのもあったと思う。久しぶりの主演…伝えることに一生懸命。普段から、こう(現場に)いないといけない」と語った。

熱く語る尾野とは対照的に、和田はロン毛になるなど大人の階段を上る過程をうかがわせつつも、緊張しっぱなしだった。尾野との共演の感想を聞かれると「とにかく尾野さんと同じシーンを撮る時は、楽屋で一緒に過ごし、和ませようとよくしてくださった。尾野さんと石井監督の下で参加でき、濃い1、2カ月…一生忘れない経験をしたと思うので、忘れずに役者人生に生かしたい」と感謝した。

尾野はスピーチの最後に「コロナ禍で映画がまともに見られない、外に出ちゃいけない、あれしちゃいけない、これしちゃいけない…その中で、こんな地味な映画を見てくれるだけでも、私たちがやったこと、頑張ったことが間違いじゃなかったと思わせてくれた。こうやって賞をいただけたと言うことは、気持ちが伝わったんだなと感じましたし。伝えられる、伝わる…いつか、こういう仕事が夢ですと言ってくれる人が増えたら」と熱っぽく語った。