俳優の崔哲浩(42)が11日、東京・シネマート新宿で行われた、主演も務めた監督第1作「北風アウトサイダー」の初日舞台あいさつで、2001年(平13)の映画「ホタル」で共演した主演の高倉健さんが撮影中、カメラの前で涙を見せなかった姿勢に感銘を受け、男優が涙したシーンを可能な限りカットしたと明かした。

「北風アウトサイダー」は、日本生まれの在日朝鮮人で小学校6年で朝鮮学校から日本の学校に転校した崔監督が脚本、プロデューサーも務め、自らの経験を脚本に落とし込んだという。「脚本を書く上で、自分の実体験を書く方が説得力があると思いまして。自分の幼少期から8割くらい、僕が体験したことをギュッと盛り込んで、2割くらいデフォルメした。ドキュメンタリーチックな映画を作りたかった」と説明した。

司会から、劇中で涙を流すシーンが高倉さんの影響を受けたと話を向けられると「高倉健さんは日本、世界を代表するスターで運良く、共演させていただいた。撮影中、一切、カメラの前で涙を落とされなかった。撮影が終わったら、健さんがおもむろに歩き出されて、今は亡き(企画の)坂上順さんと僕が何メートルか離れていたら、涙されていた」と振り返った。その上で「男の役者は、カメラの前で泣いちゃダメなんだと思った。男の泣くシーンは、なるべくカットした」と語った。

「北風アウトサイダー」は、大阪府生野にある在日朝鮮人の町が舞台。みんなの母代わりにオモニ(オカン)の葬儀後、オモニが始めた店の借金に追われ、途方に暮れる3兄妹たちの前に、15年前に失踪し、葬儀にも現れなかった長男ヨンギ(崔)が帰ってくる。変わり果てたヨンギに困惑する兄妹たちを通し、家族の絆は取り戻せるのかを描く物語。

舞台あいさつでは、松田和希役の新宮里奈(30)が「無事、この場を迎えられたことが信じられなくて感動しております。こんなマイペースな私を、8カ月の撮影期間中、温かく包み込んでくださった、一緒に取り組んできた…皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです」と言い、泣きだす一幕もあった。感動の涙に、場内は温かい拍手に包まれた。