第94回アカデミー賞授賞式が27日(日本時間28日)に米ロサンゼルスのドルビー・シアターで行われる。

注目は、濱口竜介監督(43)の「ドライブ・マイ・カー」だ。邦画初の作品賞と脚色賞(共同脚本の大江崇允氏も)、監督賞、国際長編映画賞の4部門にノミネート。アジアの映画としては20年に非英語作品として初の作品賞をはじめ監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4冠を獲得した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」以来、2年ぶりに作品賞、監督賞、国際長編映画賞にトリプルでノミネートされた。かつてアカデミー賞授賞式をタッグで取材した、村上幸将記者とロス在住の千歳香奈子通信員による、毎年恒例のアカデミー賞大予想大会。まずは「ドライブ・マイ・カー」が果たして、何部門で受賞するか、予想します。

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村上 いきなり、結論から言うと「ドライブ・マイ・カー」の、国際長編映画賞の受賞は固いと思います。世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭で邦画初の脚本賞を受賞したのをはじめ、世界各国で高評価を受け、賞を受賞しています。加えて、脚色賞の可能性もあると見ています。濱口監督も言及しているように、同名小説の原作者・村上春樹さん(73)の作品は世界中にファンが多く、その大きな要因として、登場人物の中で起きている心情描写の魅力があると思います。一方で、これも同監督が再三「映画が1番、出来ないところ。文章の再現は避けないと、映画化できない」と指摘しているように、村上文学は他にも複数、映像化されてはいても、ここまで高いレベルで実現した作品はないからこそ、評価が高いのではないでしょうか?

千歳 国際長編映画賞は、間違いないでしょうね。あと、私も脚色賞はありだと思いますが、対抗馬として有力なのは、最多の11部門で12ノミネートされた「パワー・オブ・ザ・ドッグ」でしょうね。「パラサイト」4冠の勢いと多様化を意識した新会員の増加、前評判の良さなどから、もしかして「ドライブ・マイ・カー」は作品賞もあり得る? と淡い期待も抱いています。サプライズで受賞があれば、面白いですが。

村上 データ的な補足をすれば、日本人監督が監督賞にノミネートされるのは、66年「砂の女」の勅使河原宏監督、86年「乱」の黒澤明監督以来36年ぶり3人目。邦画が国際長編映画賞にノミネートされるのは、19年の「万引き家族」(是枝裕和監督)以来3年ぶりで、受賞すれば09年の「おくりびと」(滝田洋二郎監督)以来13年ぶりです。

千歳 監督賞は「パワー・オブ・ザ・ドッグ」の、ジェーン・カンピオン監督が本命というのが大筋の予想です。女性監督として初めて2度目のオスカーノミネートとなり、かつ12年ぶりの新作。主演男優賞にノミネートされたベネディクト・カンバーバッチ、助演男優賞にノミネートされたジェシー・プレモンスとコディ・スミット・マクフィー、助演女優賞にノミネートされたキルステン・ダンストら役者の素晴らしい演技、セクシャリティーといったテーマなど、オスカー好みの力強い作品ではあると思います。

村上 「ドライブ・マイ・カー」は、21年の日刊スポーツ映画大賞でも作品賞、西島秀俊さん(50)が主演男優賞を受賞しました。受賞を受けて濱口監督を取材した同年末の段階で、西島さんが米ニューヨーク・タイムズ紙選の今年を代表する13組の俳優にアジアから唯一、選ばれていましたが、濱口監督は「米国で、ここまで支持されるとは思っていませんでした」と率直な感想を語りました。「喪失と、魂の再生」というのが作品の大きなテーマではありますが、非常に内省的でもあるので、濱口監督の言葉に納得でした。その後、アカデミー賞の前哨戦として知られるゴールデングローブ賞でも、市川崑監督の「鍵」(59年)が60年に旧名称の外国語映画賞を受賞して以来、邦画では62年ぶりの非英語映画賞を受賞。全米批評家協会賞でも作品賞、監督賞(「偶然と想像」と併せて)、脚本賞、西島がアジア人初の主演男優賞と主要4冠を獲得しました。新型コロナウイルスのパンデミックで、世界各国の人々が少なからず喪失感を抱えて生きる今、どうやって生き直して希望を持っていくのかという物語は、国境を超えて人々の心に刺さっているのだと思うのです。

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村上記者、千歳通信員の「ドライブ・マイ・カー」の米アカデミー賞受賞予想は、国際長編映画賞と脚色賞の2冠に落ち着きました。大予想大会その2は、主要賞全体の予想をします。お楽しみに。