第75回カンヌ映画祭授賞式が28日(日本時間29日)フランスで行われ、コンペティション部門に出品された、是枝裕和監督(59)初の韓国映画「ベイビー・ブローカー」(6月24日公開)に主演した韓国の俳優ソン・ガンホ(55)が、韓国人俳優として初の男優賞を受賞した。一方、是枝監督は18年の「万引き家族」以来、4年ぶり2度目の最高賞パルムドール受賞を逃した。

ソン・ガンホは、19年にパルムドールを受賞した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」にも主演したが、同映画祭の男優賞受賞は初めて。「パラサイト 半地下の家族」は、翌20年の米アカデミー賞でも非英語作品として初の作品賞をはじめ監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4冠を獲得したが、個人賞の受賞はなかった。アジアを代表する世界的な俳優であるソン・ガンホが、世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭を制した。

ソン・ガンホは、是枝監督らと熱い抱擁を交わした後、登壇し「本当にありがとうございます。光栄です。偉大なる芸術家、是枝裕和監督に深く感謝申し上げます」と是枝監督に感謝した。その上で「一緒に頑張ってくれた役者のカン・ドンウォンさん、イ・ジウンさん、イ・ジュヨンさん、ペ・ドゥナさんに深い感謝と、この光栄を分かち合いたいと思います」と共演陣にも感謝。そして「今、2階にいると思いますが、愛する家族とともに来ました。本当に大きなプレゼントになりました。とてもうれしいですし、このトロフィーの光栄と永遠なる愛を差し上げます。多くの映画ファンにこの栄光を差し上げます」と家族と映画ファンへの愛を口にした。

「ベイビー・ブローカー」は、子供を育てられない人が匿名で赤ちゃんを置いていくことができる“ベビーボックス”に赤ん坊を捨てた母と、赤ん坊を連れ去った男2人が養父母探しの旅に出る物語。ソン・ガンホは、クリーニング店を営む裏でベイビー・ブローカーを稼業とする、サンヒョンを演じた。

是枝監督は26日(日本時間27日)の公式上映後、日本メディアの囲み取材に応じた中で、公式上映中にソン・ガンホと手を握り合ったと明かした。また公式上映で初めて完成した映画を見たソン・ガンホが「撮っている時、こんなに感動的な映画になるとは正直、思っていなかった」と驚いていたことも、併せて明かした。

また是枝監督は、脚本の後半3分の1は、決定稿を出さずに撮影を始め、撮影の途中で書いた脚本を、俳優陣に渡して読んでもらった上で話し合ってブラッシュアップしたと説明。その中で、ソン・ガンホは「その度に来てくれて『ここは、すごく良くなったけども、ここは前の方が僕は好きだ』という、すごく率直な感想を4回くらい繰り返しやって」(是枝監督)と脚本に対しても自身の意見を提案したという。同監督は「それでたどりついたラストなので…そのあたりが多分、うまくいったんじゃないかと思うんですけど」と、ソン・ガンホが脚本作りにも大きな力になったことを示唆していた。

是枝監督作品で男優賞を受賞したのは、04年「誰も知らない」に14歳で初主演して、日本人俳優初の男優賞を受賞した柳楽優弥(32)以来となる。また「ベイビー・ブローカー」は、パルムドールの受賞は逃したが、キリスト教系団体が選ぶエキュメニカル賞を受賞した。