人気バンド「サザンオールスターズ」の桑田佳祐(66)が中学時代に通った神奈川県茅ケ崎市のパン店「清月」が7月15日、64年の歴史に幕を下ろす。

桑田少年に作った「まかない」が人気の商品。地元住民やファンを始め、多くの人に愛され続けてきた。閉店間際の営業日には早朝から長蛇の列ができ、店を切り盛りしてきた高橋ツナ子さん(87)は「佳祐やみなさんのおかげです」と感謝する。

00年夏に茅ケ崎で行われたサザンの凱旋(がいせん)ライブで、高橋さんはゆかりの人としてインタビューを受けた。桑田との思い出話を披露し、店はファンの間で聖地として親しまれてきた。

中学時代、野球部だった桑田は、部活の友人とパンを買いによく店に訪れていた。米国の西部劇ドラマ「ローハイド」のテーマ曲を「ローレン、ローレン」と歌い、道で靴を脱いでカウボーイのマネをしていたという。高橋さんは「みんな意気揚々と楽しそうにしていました」と懐かしんだ。桑田から「おなかがすいたからなんか作って」と頼まれて作ったのが「サザン佳祐ドック」(税込み170円)の原点。ホットドッグ用のパンに魚肉ソーセージ、トマト、レタスを挟んだ「まかない」で、特製のマヨネーズが味の決め手だという。高橋さんは「あー食った、食った」と笑う桑田の顔を鮮明に覚えている。

15年前、高橋さんの夫の清さんが病気で亡くなった。高橋さんが店を休んでいると桑田から手紙が届いた。「清月の灯を消さないで頑張れますか?」とつづられていた。高橋さんは「一番大事な人を亡くして、憔悴(しょうすい)しきっている時に心配してくれた」と振り返る。「2、3カ月頑張ろうと思っていたのが、佳祐の手紙に励まされて15年頑張れた」と笑った。

閉店間際の営業日は前日の午後9時から仕込みを始め、午前4時に開店。約1時間でほとんどの商品が売り切れる。家族から「いつまでも続けるのは大変だから」と諭され、今年初めに閉店することを決めた。最後の営業の7月15日は、高橋さんが88歳となる誕生日だ。【沢田直人】

◆清月(せいげつ) 1958年(昭33)7月15日に開店。高橋ツナ子さんと夫の清さんが一緒に始めた。定休日は週1回の火曜日で週6日間営業だったが家族の助言を受け、5年ほど前から営業日は金土日の週3日となっている。高橋さんは、桑田佳祐や桑田の友人たちと一緒に写った写真も飾っている。神奈川県茅ケ崎市東海岸南2の1の38。JR茅ケ崎駅から海に向かって徒歩約10分。