是枝裕和監督(60)が、17年のTBS系ドラマ「カルテット」、21年の映画「花束みたいな恋をした」などで知られる、脚本家の坂元裕二氏(55)と初タッグを組み、日本映画としては3作ぶりの新作「怪物」を製作したことが17日、分かった。公開日は、23年6月2日に決まった。

是枝監督は、自ら脚本も執筆するのが映画製作の基本スタンスで、外部の脚本家とタッグを組むのは、95年の映画監督デビュー作「幻の光」以来28年ぶり。最もリスペクトしてきた脚本家が、坂元氏だったといい「基本的には自分の映画は自分で脚本を書いてきましたが、誰か脚本家と組むなら誰が? という質問には必ず『坂元裕二!』と即答してきました。それは、そんなことは自分のキャリアには起こらないだろうとどこかで諦めていたからです、きっと。夢がかなってしまいました」と喜びをにじませた。

是枝監督は、19年に初めてフランスとの国際共同製作で映画「真実」を製作。今年は、初の韓国映画「ベイビー・ブローカー」を製作し、カンヌ映画祭では主演のソン・ガンホ(55)が、韓国人俳優として初の男優賞を受賞と2作連続で海外で映画を製作。23年1月12日には、森七菜(21)と出口夏希(20)がダブル主演したNetflixドラマ「舞妓さんちのまかないさん」が全世界で配信されるが、都内で10月19日に行われたトークイベントでは、映画の次回作について「取りあえず、次は日本で」と断言していた。

その上で「(脚本を)オリジナルで書こうと思った時に、やや自分が書ける人間の範囲が、自分の中で見えてきていて。それを突破するために、例えば歴史上の人物を描いてみたりとか、他の脚本家と組んでみたりとか」と、外部の脚本家とタッグを組む方向性を示唆。「自分の中から出てこない、人物像みたいなものは自分の映画の中で動かしてみようかな、という気持ちに、今はなっています」と語っていた。

坂元氏は「是枝作品の脚本を是枝さん以外の者が書くと聞くと、観客の方はどのように思われるのでしょう。わたしは、『え、そんなことはありえるの? 無理に決まってるでしょ』派です。是枝監督は世界一の脚本家でもありますから」と、是枝監督に最大限の賛辞を贈った。その上で「しかも撮影現場で俳優やスタッフと対話しながら脚本を作っていくタイプの監督です」と同監督が「ベイビー・ブローカー」でも俳優陣の演技を見ながら、脚本を現場で直す製作手法について言及。「そんな仕事を引き受けた脚本家がいたら、身の程知らずだなと苦笑いするはずです。まったくもって愚か者ですね」と、今回のタッグ実現を独特の言い回しで評した。

是枝監督と坂元氏の作品にはテーマ、題材が共通したものが幾つかある。

<1>加害者遺族 是枝監督の01年の映画「DISTANCE/ディスタンス」と、坂元氏の11年のフジテレビ系ドラマ「それでも、生きてゆく」

<2>赤ちゃんポスト 是枝監督の「ベイビー・ブローカー」と、坂元氏の10年の日本テレビ系ドラマ「Mother」

<3>子供達の冒険旅行 是枝監督の11年の映画「奇跡」と、坂元氏の11年の日本テレビ系ドラマ「さよならぼくたちのようちえん」

<4>疑似家族 是枝監督の18年「万引き家族」と、坂元氏の18年の日本テレビ系ドラマ「anone」

是枝監督は「こんなことを言うと坂元裕二ファンには怒られるかも知れませんが、同じモチーフに関心を持たれている方だなと親近感を抱いておりました」と自ら、その点を指摘。その上で「もちろん作品になるタイミングは前後していますし、扱い方は全く違うのですが、それでも彼と自分は同じ時代を生き同じ空気を吸って吐いているんだと感じていました。そして、何より、その題材をとてつもなく面白いものに着地させる手腕には、羨望(せんぼう)と畏敬の念と両方を抱いておりました」と、坂元氏に抱いてきた憧れ、尊敬の思いを率直に語った。そして「今回は、縁あって共同作業が実現してしまいました。監督としてこの素晴らしい脚本とちゃんと勝負しなくてはいけないと、ファンであることは隠したつもりだったのですが、恥ずかしながら、バレバレだったと思います」と率直な思いを明かした。

一方、坂元氏も「是枝さんは学年もクラスも違っていて話したこともないけど、時々廊下で目が合ったり、持ってるものを見て真似して手に入れたくなる、憧れの存在のような人でした。あんな人になりたかったな、なれなかったな。いいな、うらやましいな」と是枝監督に憧れがあったと語った。その上で「そんな嫉妬めいた思いの対象だった是枝さんが、『海よりもまだ深く』という映画の作中やインタビューで『こんな自分になりたいわけじゃなかった』と語られていて、驚きました。是枝さんの秘密をちょっと知ったような気になりました」と、16年の映画「海よりもまだ深く」の公開時に新たな一面を知り、さらに興味を持ったと語った。

撮影は22年の春と夏に終え現在、ポストプロダクション中だ。是枝監督が「まだタイトル以外は明かせませんが、誰よりもこの作品の完成が待ち遠しいです」と語る中、特報映像が解禁された。森の中を走る2人の子供を背後から映し「怪物、だ~れだ?」という子どもの声が入る。怪物とはいったい何か、この2人の子供たちが、どのような物語を紡いでいくのか。

坂元氏は「誰だって多かれ少なかれ自分に納得いかなくて、こんなつもりじゃなかったと思いながら生きていて、どこかで折り合いをつけようとするけど、良いこともあれば悪いこともある。自分のことがあまり好きじゃなかったりする。廊下の向こうにいる是枝さんのことを見かけるたびに、『僕もそうなんだよね』と心の中で勝手に話しかけてみたりする、そんな存在に変わって、この映画もそんなふうにして作っていきました」と、映画を製作してきた中で感じた思いを語った。その上で「自分を好きになれない誰かへのエールになるといいなと思っています」と力を込めた。

是枝監督は17日、自身のツイッターアカウントで、台湾のアカデミー賞「金馬奨」を訪れていると報告。

「金馬奨映画祭で台湾に来ています。昨晩はマスタークラスに参加の坂元裕二さんとお粥を食べて、今日は鼎泰豊で小龍包を食べました。今、食後の街歩き中。」

と、坂元氏とのツーショット写真を公開し、親密ぶりをのぞかせた。

◆是枝裕和(これえだ・ひろかず)1962年(昭37)6月6日、東京都生まれ。早大卒業後、テレビマンユニオンに参加。14年に独立し制作者集団「分福」を立ち上げる。95年に「幻の光」で監督デビュー。04年「誰も知らない」、13年「そして父になる」、15年「海街diary」などを経て、18年「万引き家族」でカンヌ映画祭で最高賞のパルムドールを受賞。

◆坂元裕二(さかもと・ゆうじ)1967年(昭42)5月12日、大阪府生まれ。19歳で第1回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞しデビュー。同系の07年「わたしたちの教科書」で第26回向田邦子賞、11年「それでも、生きてゆく」で芸術選奨新人賞、13年「最高の離婚」で日本民間放送連盟賞最優秀賞。日本テレビ系の10年「Mother」で第19回橋田賞、14年「Woman」で日本民間放送連盟賞最優秀賞。TBS系の17年「カルテット」で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。近年の作品には21年のフジテレビ系「大豆田とわ子と三人の元夫」、22年の日本テレビ系「初恋の悪魔」など。16年から東京芸大大学院映像研究科映画表現技術脚本領域教授。