主演は9年ぶり。歴代3位の高齢受賞となった主演女優賞の倍賞千恵子(81)は「何かの間違いかなと思いました。精進いたします」と照れ笑いした。
主演作「PLAN 75」は75歳以上が自ら生死を選択できる「近未来の日本」を舞台に高齢化社会の深刻さに焦点を当てている。
「最初に台本を読んだときは、正直きついなあ、と思いましたね」
30代半ばから映画学校に通い始めた遅咲きの早川千絵監督(46)はこれが長編デビュー作。撮影中は一見おっとりとしたこの35歳下の監督に何度も救われた。
「時々(演技に)迷うことがあったんですけど、見抜いたように(監督が)すすすっとそばに来て『あのね、あのね、きっとミチ(役名)の気持ちはこうだと思うんですよ』ってすごく優しくミチ(のキャラクター)を吹き込んでくれるんです。ありがたかった」
巨匠山田洋次監督作品の常連として、長年研さんを積みながら、新人監督の指導を素直に受け入れるところに、改めてこの人の懐の深さを感じる。監督のこだわりも理解し、応えた。
「ラストでミチが歌うところは私も好きなシーンなんですけど、監督は『息』を主に歌ってください、と。それが難しかった。他のさりげないシーンでも、監督は『息』『息』とおっしゃる。きっとそれがミチの生きている証しということなんでしょうね」
確かに劇中のミチの息づかいはどれも印象的だ。
作品のテーマから自らの死生観に向き合うことにもなった。撮影前知り合いの住職に尋ねると「死とは、そこまでどう生きるかということです」と言われた。
「1日1日を大事に生きて、もし仕事が入ったなら、心と体がそれに対応できるような自分でありたい、今はそう思えています」。【相原斎】
◆選考経過・主演女優賞 「こんなふうに年を取りたい、救いがあったと思えたのは倍賞さんだから」(神田紅氏)「たたずまいからしぐさまで、動いているだけで感じる事ができるのは倍賞さんしかいない」(伊藤さとり氏)と称賛が相次ぎ1回目の投票で過半数を獲得。
◆倍賞千恵子(ばいしょう・ちえこ)1941年(昭16)6月29日、東京生まれ。54年「ひばりの赤ちゃん」で歌手デビュー。60年に松竹歌劇団入り。61年「斑女」で映画デビュー。63年、山田洋次監督「下町の太陽」に主演。映画「男はつらいよ」全50作で妹さくら役。
◆主演女優賞の年齢 81歳の倍賞は、95年第8回の杉村春子さん(当時89)、91年第4回の村瀬幸子さん(当時86)に次ぐ、歴代3位の高齢受賞。
◆PLAN 75 78歳の角谷ミチ(倍賞)は高齢を理由に仕事を解雇され、満75歳から生死の選択権を与える「プラン75」申請を検討する。市役所の申請窓口で働く岡部ヒロム(磯村勇斗)とコールセンターの成宮瑶子(河合優実)はシステムに強い疑問を抱く。



