成人男性向け雑誌の編集部という独特な世界を描きながら、その普遍的な作品性が支持され、話題の映画「グッドバイ、バッドマガジンズ」の、全国順次上映初日舞台あいさつが20日、東京・テアトル新宿で行われた。

映画は、2018年(平30)9月から順次、全国のコンビニで発売が停止となっていった、成人男性向け雑誌の編集部が舞台。22年10月に同劇場で1週間限定で行われたイベント上映が連日、満席と大好評だったため、公開が全国に拡大された。

司会を務めた宮嶋信光プロデューサーは、成人男性向け雑誌の編集部に所属していた経験があり、舞台あいさつの冒頭で、大手コンビニ各チェーンが男性向け成人雑誌の販売中止を発表したのが、4年前の2019年1月21、22日だったと説明。ある意味、節目とも言うべきタイミングで全国順次上映初日を迎え、横山翔一監督は「まさに4年前、エロ本が(コンビニから)なくなるぞ、というところが契機になった作品なので、鳥肌ものだなと。こんな偶然があるんだと感慨深い」と喜びをかみしめた。

物語は、映像制作会社で働いていた横山監督と、宮嶋プロデューサーの実話が、ほぼ9割、盛り込まれているという。例えば、付録のDVDに落とし込んだアダルトビデオの映像の、モザイク処理をし損なっていたと読者から指摘され、雑誌の回収を余儀なくされた営業担当者から、編集部員と部長がしかられる場面が劇中に出てくるが、それは同プロデューサーが、実際にやってしまった出来事だという。

主演の杏花(23)は「今まで、私は高校、大学生といった自分が経験したような役柄が多かった。出版社で、社会人として生きている1人の女の子の2年間を描くことが、すごく難しくもあり、挑戦したいと思える役柄だった」と演じた新人編集者・森詩織について語った。横山監督から、実体験を伝授されながら撮影したといい「オフィスのシーンが印象的。疲れた時の表情や、寝袋を使ったり、椅子を並べて寝たり…漫画のような世界だけど、本当にあるんだと。新しい発見と、ウソのようだけど本当のことだ、と伝えていただいたのが新鮮で面白かった」と振り返った。

先輩編集者の向井英を演じたヤマダユウスケ(35)は、演じるだけでなく、ポスター含めたスチールも担当し「人の2倍、楽しめたことがうれしい」と笑みを浮かべた。1週間限定上映の際は、テアトル新宿近くの新宿ゴールデン街で「チケット1枚、1枚、手売りしていた」といい「今日の日を迎えられハッピー、ハッピーです」と喜んだ。

セクシー女優の経験もあるライター・ハル先生を演じた、セクシー女優の架乃ゆら(24)は「撮影期が1日しかなくて…すごく現場のチーム感、作り上げているの、楽しくて、また味わいたいと思って差し入れを持っていった」と振り返った。差し入れは「空き缶が必要というシーンがあると聞いていたし、皆さんも苦境に時で疲れているだろうと思ったので」と、エナジードリンクを持っていったという。

女性編集者の澤木を演じた春日井静奈(44)は、架乃の差し入れたエナジードリンクを飲んだといい「撮影に使いました」と缶まで活用したと明かした。その上で「オフィスのシーンは何日か連続して撮影した。初日に入った時よりも、だんだん空気がよどんで、臭くなっている感じ」と言い、苦笑した。そして「みんながリアルになっていく姿が、印象的な現場」と振り返った。

杏花は、舞台あいさつの最後に「この映画は、たった1人の人…それぞれ一生懸命に自分と社会に、ずぶとく立ち向かっていく。現実に基づいているからこそ、きれいごとじゃない、自分の現実と重なる部分がある。救われたりとか、皆さんの光になる…心の中に、ずっと残ってくれる、そんな映画になればいいなと」と作品を評した。その上で「男性向け成人雑誌を作っている出版社の話ではあるけれど、多くの方に届けたいと思う、普遍的な映画になっているなと思っているので。皆さんの感じたことを広げてくださると…この映画が、どんどん全国で上映できるようになると信じています」と観客に支援を呼びかけ、瞳をうるませた。

横山監督は「もともと、僕と宮嶋さんの思い付きで作り始め、形が全く見えないままやってきて、1週間の限定上映を経て、全国順次上映…これ以降の宣伝の方法が分からない」と今後の宣伝方針を観客に質問するという、あり得ない締めのあいさつを展開。さらに「ゴールデン街でチケットを手売りして、チラシ配って」と続けると、ヤマダも「最初はチラシをする枚数が少なすぎて、配るチラシもないところからのスタートだった」と振り返った。同監督は「宣伝の仕方が分からないので、もし、この映画がお気に召しましたら。近くの方にお伝えいただき…良いアイデアを」と半ば真顔で呼びかけていた。

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