女優の辻凪子(27)が主演、監督を務める活弁付き新作無声映画「I AM JAM ピザの惑星危機一髪!」が、21日から横浜の映画館・シネマ・ジャック&ベティで上映スタートした。22年11月に、撮影した京都で先行上映したのをはじめとして、同12月から東京、大阪、神戸、名古屋、新潟、仙台と、全国主要都市で順次、公開してきたが、今回の横浜でいったん、終映する。

シネマ・ジャック&ベティでは27日まで上映するが、関西を拠点にする活動写真弁士の大森くみこが語り、ピアニストの天宮遥が生伴奏を担当する、活弁公演版は21、22日の午後4時からの、それぞれ1回のみの上映で、22日からは活弁吹込版の上映となる。辻が活弁公演版の面白さ、魅力を語った。【村上幸将】

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「I AM JAM-」は、活動写真と呼ばれた明治から昭和初期の無声映画に、弁士による語りと生演奏をつけた日本独自の文化「活弁」に感銘を受け、辻が監督、脚本、主演を務め、大森とタッグを組んだ、活弁ありきの新作無声映画。長編映画初監督作品でもある。

物語の主人公は、世界一のコメディエンヌになる夢を胸に毎日、アルバイトに明け暮れるジャム。ある日、ジャムは1000年に1度の大嵐に襲われ、ピザの惑星に飛ばされてしまう。そこで出会った王様から、全銀河系の運命が託されることになる。そんなジャムが、スクリーンをところ狭しと走り回り大暴れする。

そうした登場人物の動きと、大森の軽快なトークが絡み、物語のテンポは、さらに上がる。天宮のピアノのタッチも躍動感を増し、場内の空気が高まると、客席に座る観客の肩も踊りだす。劇中には、大森の問いかけに観客がリアクション出来る参加型の仕掛けも用意されている。IMAX、4DXといった最先端のシアターとはひと味違う、スクリーンに入り込んでいけるような劇場体験に、観客は沸く。

-活弁公演版の素晴らしさは

辻 大森さんが、お客さんの反応によってセリフを変えていくから、生の感じ方は全然、違うと思います。大森さんの語りかけによって、お客さんが引き寄せられ、笑いやすい空間が出来る。活弁の力は、大きいなと。

辻は、京都芸術大映画学科1回生の頃、映画の歴史を教えてくれるワークショップで学ぶ中で、大森のイベントを知り、参加。そこで活弁付き映画を初めて見て、魅力に取りつかれた。

辻 参加して、素直に楽しめる一体感…私も活弁を初めて見た時に、感動しました。普通に映画を見るより、自分も映画の中に入ったように、羞恥心もなく素直に子どもの頃に戻ったように、テーマパークに入ったような楽しみ方が出来るんです。

ある日、岡本建志プロデューサーから、大森と組んでの活弁付き新作無声映画製作の打診を受け、企画したが製作、公開に約3年もかかった。

辻 岡本プロデューサーから「活弁映画を撮らないかと?」とお話をいただいて。大森さんと一緒にやってくださいと言われ、ご縁を感じて。新作の無声映画を撮っている方はいても、活弁ありきで長編映画、劇場公開作品というのは前例がないと思います。私も長編映画を撮ったことがない…でも、今まで舞台をやってきて、映画を学んできた、全部を生かせると思ってやってきました。助成金+クラウドファンディングもしましたが…思った以上にお金がかかりましたね。

-脚本は好きなファンタジーを盛り込んだ

辻 無声映画ならファンタジーと決めていましたね。大好きな映画「オズの物語」のような冒険物語です。京都で撮ることは決まっていたのですが、京都では異世界に行けないと思って、よりファンタジーにするために架空の街を作って惑星を救う話にしました。現実では戦えない、起こり得ないこと、人間がかなわないもの…コロナ禍もそうですが、そういうものと、映画の中で戦いたかった。直接的に現実に起きていることを描いても、普通の映画になるので娯楽にしたい。だから全部、比喩で描きました。

辻は、16年「べっぴんさん」、17年「わろてんか」、18年「まんぷく」、19年「なつぞら」「スカーレット」そして21年「おちょやん」と、5年で6作もNHK連続テレビ小説に出演した。また22年7月期のテレビ東京系「晩酌の流儀」にレギュラー出演し、同12月30日に放送された「-年末スペシャル~一年の最後に、最高の一杯を~」にも出演。地上波連ドラにも出演する女優が、なぜ、前時代的な活弁付き新作無声映画に、これほど強くこだわるのか?

辻 他にない映画、楽しい映画を作りたかったんですね。今まで、私が見てワクワクした映画。「ET」もそうだし。最近の日本映画、暗いなと思って…。お客さんが笑って、現実の嫌なことを忘れられる、楽しい映画を作ろうぜ! という感じですね。

主人公のジャムは、まるで自分を仮託したようなキャラクターだ。そこに込めた思いがある。

辻 私は監督ではないし、役者もずっとやっていくし…この先、映画は撮れないかも知れない、というのもあって。一生に1度きりのものやから、今まで生きてきた自伝的な映画にしようと思いました。

作品の公式ツイッターは、横浜での公開初日を迎えた21日に

「どうやったら見にきてもらえるのかなぁ。自分たちの情熱を信じて作りました。活弁って、面白いので、諦めたくないです。」とツイートし、映画ファンに呼びかけた。辻凪子と「I AM JAM-」の旅は、まだまだ、終わらない。

◆辻凪子(つじ・なぎこ)1995年(平7)9月1日、大阪府生まれ。幼い頃から英国のコメディー「MR.ビーン」に憧れ、コメディエンヌを目指し女優の道へ。京都芸術大映画学科卒業後も、年に1本はオリジナル映画を製作するなど映画監督としても活動中。同大3年時には、初監督作品「ゆれてますけど。」が英国のクリスタルパレス映画祭で入選。自身の体験を下に、大学の同期の阪元裕吾監督と共同監督を務めた17年「ぱん。」は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭でグランプリを受賞。間寛平が座長を務める「劇団間座」にも所属。NHK連続テレビ小説には、17年「わろてんか」、19年「スカーレット」、20年「おちょやん」に出演。テレビ東京系で7月期に放送された「晩酌の流儀」にも出演など舞台、映画、ドラマと幅広い活動を続けている。

◆「I AM JAM ピザの惑星危機一髪!」 毎日、アルバイトに明け暮れるジャム(辻)の夢は世界一のコメディエンヌになること。そんなある日、ジャムに全銀河系の運命が託される。間寛平やドランクドラゴン塚地武雅らも出演。