元石原プロモーションの俳優金児憲史(44)が、プロデューサー業に初挑戦した。舞台「いじけた神様」(15日開幕、東京・恵比寿のシアターアルファ東京)の制作を手掛けた。「こんなに大変だとは思いませんでした」と苦笑いする。

きっかけは危機感だった。コロナ禍で閉塞(へいそく)感が強まっていた2年前の秋。エンターテインメント界も身動きが取りづらくなっていた。「俳優が力を発揮する場が減っていた。ならば自分が作ってみようと」。舞台経験は豊富ではないが、予算の一部を負担して作ることができるのは舞台だと思った。

決意の理由はもう1つ。妻で女優の楊原京子(40)の存在だ。14年に結婚、2児の母だ。「出産後ますますきれいになり雰囲気もたおやかになった。女優としても本当にいい状態。(出演依頼を)待っているだけではだめだ」と思い、本人に切り出した。「あなたを主演にした舞台を作りたい」。快諾を得ると手探りの日々が始まった。

オリジナルとなる脚本は旧知の居村有栖氏、演出は「特命係長・只野仁」などのドラマや映画「20歳のソウル」で知られる秋山純氏に依頼。いずれも舞台の脚本や演出は未経験だった。「舞台制作を知りすぎていないことで一緒に考え、悩み、楽しむことができると思った」。脚本作りに携わりながら劇場や稽古場の確保、スタッフ編成、キャスティングなど初めての作業に取り組んだ。周囲のアドバイスを受けて「プロデューサーの仕事の領域を学びました。眠れない日も続き、めちゃくちゃ痩せました」。それでも初心を忘れず「絶対にやり切る覚悟だけはありました」。

出演依頼は各所属事務所に自分で連絡した。「あらゆる準備はします。とにかく舞台上で輝いてください」と熱意を訴えた。初めての出演料交渉も行った。

劇場や稽古場を予約し、手付金は負担した。稽古スケジュールは自分の考えを反映させた。出演者の中にはアルバイトで生計を支えるメンバーもいる。「出番ではない部分の稽古にはなるべく参加しなくていいように抜け稽古をスケジュールに組み込みました」。必要以上の拘束をなくして、アルバイトも休まなくて済むように配慮した。

プロデューサー挑戦に乗り出す上で、かつて所属した石原プロの影響も大きかった。同プロには、石原裕次郎さんや渡哲也さん、舘ひろしらトップスターを支え、多くのヒットドラマを制作した小林正彦専務がいた。「スケールは違いますが確実に影響を受けています」。俳優との向き合い方も自然と受け継いだ。「今回、出演者全員に輝いてもらえる場を作った。皆さんに見せ場がある。小林専務には,そういう愛がありましたから」。

「いじけた神様」は不倫を題材にしたコメディー。スタジアムのウグイス嬢、プロ野球選手、首相、野党党首らが思わぬ運命に導かれていく姿を描く。楊原が主演を務めるほか、ドロンズ石本、森岡豊、ミスターちん、秋本奈緒美らが出演する。公演は19日まで。