光石研(61)が12年ぶりに単独主演する映画「逃げきれた夢」(二ノ宮隆太郎監督、9日公開)の完成披露舞台あいさつを取材した。旧友役として出演する、同郷の松重豊(60)とのかけ合いが楽しかった。

光石が生まれ育った福岡・北九州市で撮影し、実父が父親役で出演するなど二ノ宮監督がリアリティーにこだわった作品。20年以上の間柄である松重が友人役を務めることについて「松重さんとのお芝居は読み合わせも相談もないけど、パスを出すと、トラップして一番蹴りやすいところにボールを置いてくれる感覚がずっとある」と光石。松重も「光石さんとは30代から映画の現場で一緒で、いつも僕ら世代の俳優のベンチマーク」といい、「リアリティーで言うと、光石さんにかなう人はいないと思う。60代の生々しいリアリティーを投影したこの作品で横にいられて、本当に幸せでした」と笑わせつつ信頼を語った。

人生のターニングポイントを描く作品にちなみ、出演者が自身の転機を聞かれるシーンがあった。光石は映画「博多っ子純情」のオーディションに合格し、16歳で主演デビューした当時を「その1本がなければこの世界にいない。ターニングポイントになったと思う」と振り返った。一方、福岡市出身の松重は「僕が15、6歳の時に福岡の地元であるオーディションがあったんです。『博多っ子純情』という映画だったんですけど」と切り出すと、「新聞に大々的に『主演の男の子が決まりました。北九州市出身の光石研君です』って書いてあった。その時に僕の人生も変わったんです。なんで北九州の人間が『博多っ子純情』をやりよったのか!って」とまくし立てて、会場の笑いをさらった。

司会から「意趣返しとして、博多の男が北九州の作品に出たのか」と聞かれると、「分かっていただけてありがたいです」と満面の笑み。光石も笑顔で松重のジョークを聞いていた。

同日の個別取材で光石にインタビューの時間をもらっており、松重との関係について尋ねてみた。01年公開の映画「ユリイカ」での共演が大きかったといい、「役所(広司)さんはじめ、でんでんさん、松重さん、俺とか、九州の俳優さんが割と多かったんです。九州弁で話したり、みんなでご飯に行ったり。そこですごく仲良くなったんです」と教えてくれた。

今作でも、撮影の合間に松重と2人で喫茶店に連れ立ったという。そこでのエピソードにも笑わせてもらった。

「やっぱりね、松重さんが行くと、そういう店がざわつくんですよね。『孤独のグルメ』の五郎さんが来た!って。『チーズケーキが食べたいんだけど』って言ったら、ぶわーっと店内がざわついて、『オーナー!』みたいな(笑い)。チーズケーキのお皿も手震えながら、カタカタカタカタっていわせながら出してましたよ。食べるときも、ゆっくりさじをこうやって(口に運んで)パッといったら、みんなが止まる。松重さんが『おいしいです』って言ったら、みんなハーって胸をなで下ろすみたいな(笑い)。そんな感じでしたよ」

同世代俳優の楽しそうな光景が目に浮かんだ。【遠藤尚子】