英歌手ポール・マッカートニー(71)が18日、11年ぶりの日本公演「アウト・ゼアー・ジャパン・ツアー」の東京ドーム公演初日を行った。会場はビートルズとして初来日した47年前の思い出の日本武道館から、わずか約1・5キロの場所。亡き盟友ジョン・レノン(享年40)とジョージ・ハリスン(享年58)の持ち歌も披露した。今回のツアーで大阪、福岡と列島を興奮させてきた歌声に、往年のファンから若者までが酔いしれた。

 大阪公演と同じ曲目で、全体の64%、全39曲中25曲がビートルズ。だが、ここ東京でやる意味があった。

 中盤に差しかかった16曲目の前に日本語で「次の歌はジョンのためです。ジョンに拍手を」と言うと、バラード「ヒア・トゥデイ」を弾き語りで歌った。80年にジョンが殺害され、ショックで一時音楽活動を休止したポールが、82年の活動再開時に発表した「タッグ・オブ・ウォー」の収録曲。言わずと知れた盟友への追悼歌だ。歌い終えるとジョンのトレードマーク、ピースサインを頭上に掲げた。汗か涙か。右の目頭をぬぐっていた。5万人の大観衆も、この時ばかりは掛け声ひとつもかけず、温かい拍手で見守った。

 亡き2人のためにささげたのは、24曲目と25曲目だった。まずはジョンが作曲したといわれるアルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」収録のレノン=マッカートニー共作「ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」を披露。続いて「次はジョージのためです。ジョージに拍手を」と紹介し、アルバム「アビイロード」からジョージの名曲「サムシング」を歌った。ジョージから譲り受けたウクレレで弾けば、ファンは全てを理解した。軽快な弦音に手拍子を合わせながらも、大画面にポールとジョージのツーショット写真などが映し出されると涙ぐむ客も出るほどに感動的な場面となった。

 ポールは、ビートルズの名曲の数々を歌い、ジョンやジョージへの思いを語ることを、日本のファンが待っていたことを熟知していた。出し惜しみせずに歌いきり、亡き友のことを語った。「愛してます。トーキョー」。47年前にも言ったであろう言葉は、時を経てより深い意味が込められるようになっていた。

 残りは2公演。ポールは何を伝え、ファンは何を感じ取るのか。新曲や70年代のバンド、ウイングスの曲なども歌っている。ただ、71歳のポールが向き合った今ツアーは、47年前に日本を席巻したビートルズ物語のエピローグの1つといっても、言い過ぎではないのかもしれない。【瀬津真也】