全世界で8100万人を動員したミュージカル「キャッツ」の映画版(公開中)で、ヒロインの白猫ヴィクトリアを演じているのが世界屈指のバレエダンサー、フランチェスカ・ヘイワード(27)だ。公開に合わせて来日した彼女に話を聞いた。

◇ ◇ ◇

劇中では文字通り猫のような動きが印象的だ。

「バレエで『白鳥』の経験はありますが、猫は初めてでした。撮影前に出演者全員で『キャット・スクール』に行ったんですよ。動画で猫の動きを徹底的に研究。どうやって絡み合うのか、じゃれ合うのか。動きの1つ1つをまず見て、実践して。それからようやく振付が始まったんです。1人1人のキャラクターが際立つように、それはそれは丹念に指導されました。後から尻尾と耳がCGで付けられることが分かっているので、それを念頭に置きながら、全体の動きを頭に描き、体を動かしたんです」

ミュージカル生みの親アンドリュー・ロイド=ウェバーが総指揮し、「英国王のスピーチ」のトム・フーパーが監督。照明、音響、巨大セット…。文字通り鉄壁の布陣が敷かれた。

「猫から見た街並みを再現しているので、壮大なセットに息をのみました。イヤ・モニターを装着して生演奏を聞きながら、歌い踊るのですが、演出家はどこにいるのか分からない。その声が聞こえるイヤ・モニターだけが頼りでした。だから、イヤ・モニターを外して家に帰っても幻聴が聞こえました。全身タイツのようなモーション・キャプチャー用のスーツ自体は、バレエのコスチュームに近いので、抵抗はなかったのですが、両腕、両足にバッテリーのパックが装着されていてその重量感があるので、最初は体のバランスを取るのに苦労しました。最新のスーツはおでこのところに自分の姿が見えるモニターが付いているので、それも気になりましたね」

先行公開の欧米では、最新技術が創り上げた「猫人間」の生々しさに違和感を覚える人も少なくなかったようだ。それでも、映画初出演のヘイワードの表情豊かな演技はそれだけで魅力的だ。世界3大バレエ団の1つ、英ロイヤル・バレエのプリンシパル(トップ・ダンサー)。157センチ、リンゴ大の小さな顔にバービー人形のような体形。ケニア・ナイロビで英国人の父とケニア人の母の間に生まれた。

「筋立てて演じていくバレエと違い、撮影は必ずしもストーリーの順番ではないので、いきなり笑ったり、泣かなければいけませんし、カメラだけがあって誰もいないところに向けて演技をしなければいけません。感情を作るのがたいへんでした。監督の手取り足取りの指導がなければ何にもできなかったと思います」

2歳の時に英国に移り、祖父母の元で育てられた。

「じっとしないワイルドな子だったんですが、祖父が買ってきた『くるみ割り人形』のビデオにくぎ付けになりました。その時からバレエに夢中でした」

才能はあっという間に開花し、23歳と異例の早さでプリンシパルに出世した。やっかみもあっただろう。

「バレエ団に入ったのは11歳。実はトップに行くためのぎりぎりの年限でした。遅く始めた分だけカリキュラムは厳しいし、いろいろなことがあって体も心もボロボロになりました。何度もやめようと思いました。舞台上のえもいわれぬ達成感だけが救いでしたね。今でも日曜日以外は、朝10時から夕方6時までレッスンの毎日なんですよ」

白猫ヴィクトリアのパフォーマンスは、最新最高の撮影環境と屈指のバレエ・ダンサーのいちずな思いから生まれた。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

「キャッツ」の1場面 (C)2019UniversalPictures.AllRightsReserved.
「キャッツ」の1場面 (C)2019UniversalPictures.AllRightsReserved.