新型コロナウイルス感染拡大によるパンデミック以降初となる大作映画「TENET テネット」が、3日にアメリカでも満を持して公開されました。コロナ禍で映画館の閉鎖が続くアメリカよりも一足早く、先月から韓国やイギリス、ドイツなど欧州で公開されていた「TENET テネット」は、現在も映画館の再開が認められていないロサンゼルス(LA)やニューヨーク、サンフランシスコなど大都市を除く北米の2810館でスタートを切ったのです。LAは現在ドライブインシアターのみ営業が認められており、先月から公開されているパンデミック後初の映画となった「アンヒンジド」などが上映されていますが、メガホンを取ったクリストファー・ノーラン監督があくまで映画館での公開にこだわったためドライブインシアターでの公開は見送られ、残念ながらLAでは観ることはできません。それでも、公開週末3日間の興行収入では2020万ドルを記録するヒットとなりました。

5000万ドルを超える規模のオープニングを稼ぐノーラン監督の作品としては「プレステージ」(2006年)以来となる低い数字だったようですが、公開されたのはもともと大作の公開がないことで知られるレイバーデー(労働者の日)という連休の週末。夏の終わりを告げるレイバーデーはどちらかというと映画館に足を運ぶよりもBBQや旅行など最後の夏を楽しむ人が多いことで知られるため、コロナ禍前のハリウッドではこの連休前に夏の大作映画の公開は全て終えているのが常識で、興行が期待できないこの時期に大作が公開されること自体が異例なこと。さらに全米の映画館のおよそ65%しかオープンしていない現状も考慮すれば、好調な滑り出しと言えます。

ロンドンで「ミッション:インポッシブル」シリーズ最新作を撮影中のトム・クルーズは先月、一足早く特別試写会をお忍びで訪れた際の様子をSNSに公開し、映画館に大作映画が戻ってきたことを祝福するコメントを投稿していますが、どれだけ多くの人がこの日を楽しみに待っていたことでしょう。カリフォルニア州では「TENET テネット」の公開直前にLAやサンフランシスコから日帰り圏内の南部サンディエゴや北部ナパバレーなどで映画館の再開が認められたことも追い風になり、連休を利用して映画を観に遠出した人もたくさんいたようです。感染拡大が収束していないLAでは依然としてテーマパークや美術館など多くの娯楽施設が閉鎖されていることやこの週末は一部地域で49度超えの記録的な猛暑になったこともあり、多くの映画ファンが車で南に3時間ほどドライブして涼しい劇場で「TENENT テネット」を楽しんだと伝えられています。また、ニューヨークでも同様に隣州の映画館が大繁盛しているそうで、祝日である7日の数字はこれから発表されることになりますが、6日までの3日間ですでにレイバーデーの興行記録としては歴代7位にランクイン。4日間トータルで3000万ドル近くまでいくと予想されており、映画館存続の危機に直面する劇場主にとっては明るいニュースとなりました。

世界興行では1億5000万ドルを超え、4日に公開された中国でも大勢の観客で賑わう様子が伝えられていますが、これから秋にかけてLAなど大都市でも映画館が再開されればさらに多くの映画ファンが劇場に足を運ぶきっかけとなることが期待されています。配給するワーナー・ブラザースは、コロナ禍での公開について「パンデミック以前の世界と比較することは不公平で根拠のないもの」とコメントしていますが、3月中旬から半年近くも閉鎖されていた映画館に大作映画が戻ってきたこと自体が今は大きな前進。そして、この現状を救えるのはノーラン監督の新作以外には考えられなかったこともまた事実です。3月以降ハリウッドは多くの映画が公開延期や中止に追い込まれていますが、ディズニーは実写版「ムーラン」の劇場公開を見送って配信サービス「ディズニー+」での配信に切り替えてこの連休から配信をスタートさせています。視聴するには6.99ドルを支払って同サービスに加入した上で29.99ドル、日本円にすると約3200円のレンタル料も支払う必要があり、その高額な値段も不評を買っていますが、何よりもようやく映画館が再開したタイミングで劇場公開をせずに配信サービスに切り替えたことは映画の存続を揺るがすものだと批判が殺到。「TENET テネット」との明暗がくっきりと分かれることになりました。

「TENET テネット」は日本では18日からの公開です。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)