AKB48グループ3代目総監督の向井地美音(22)が各界のリーダーから学ぶ「リーダー論」の第9回は、バレーボール元女子日本代表で、12年ロンドン五輪銅メダルの竹下佳江氏(42)との対談後編です。今回はより具体的に、リーダーとしての、メンバーとの向き合い方について話しました。【取材・構成=大友陽平】

女子バレー元日本代表の竹下佳江氏(左)とリーダー論を語り合ったAKB48向井地美音
女子バレー元日本代表の竹下佳江氏(左)とリーダー論を語り合ったAKB48向井地美音

向井地 前回は女性の集団をまとめることについてのお話を中心に伺いました。竹下さんは昨シーズンまで監督も務められましたが、キャプテンとの違いはどんなところにありましたか?

竹下 キャプテンの時は選手の中でまとめることの中心でしたが、監督になると全てを決定しないといけないので、自分が結論を出して事を進めないといけないという責任感は、選手時代とは違いました。ただ、もともとセッターをやっていたので、全体を把握するということは監督にも共通していることなのかなとは思います。あとはプロチームでしたので、フロントとの向き合い方は全然違いましたね。

向井地 私たちでいえば、キャプテンとプロデューサーの違いでしょうか。キャプテン時代、監督さんとの付き合い方はどのようにされていたんですか?

竹下 バレー界には、本当にいろいろな監督がいます(笑い)。たくさんワーッて言う監督もいれば、寄り添いながら良いチームを作っていこうという監督もいました。いろいろな監督の中でできたのは、自分の成長にもつながったと思います。自分が監督になった時はなるべく悪いところはまねせずに、良いとこ取りはしていこうと思いました。選手もプロです。今にあった指導法やコミュニケーション方法もあると思います。昔は、全員の中で怒られたとしても「しょうがないかな」と私なんかは思える年代なんですけど、今はみんなの前で1人だけ怒られたりすることはすごく嫌がられるので、1対1で話して落としどころを見つけたり、そういうところは気にしていました。

向井地 その時に、具体的にどのように話すようにしていましたか?

竹下 監督になってからは、自分の感情の部分はセーブして、フラットでいないといけないと思っていました。特に女性の集団なので、誰よりも女性のことが分かるので…。フラットの中にも、中心になるキャプテンとは、よく話しながらやっていたと思いますね。

向井地 選手同士のライバル関係もありますよね?

竹下 ありますよ! 同じポジションとか、自分がコートに立ちたいと思えば思うほど、ギラギラしたものは出てきますよね。でもだからといって、私が監督をしていたチームでは、プライベートで人の足を引っ張るとか、そういうことはなかったですね。

向井地 そういう“バチバチ感”は試合でも出すんですか?

竹下 逆に、AKBのバチバチ感ってどういう感じなんですか?(笑い)

向井地 正直、あまりバチバチはしていないんです。心の奥底にはそれぞれあると思うんですけど、表に出さない子が多いです。パフォーマンスする上では、あった方がいいのかな? と思うこともあるのですが…。

竹下 今の若い子たちは、内に秘めているというか、あまり表に出さないけど、本当は熱いものを持っていたんだって話してみると分かったりします。戦いの場では熱いモノを持っているけど、プライベートはそれは関係ないから仲良くいようという子が多いです。それはそれでいいのかなと思います。AKBとかアイドルの世界は、結構バチバチしているのかなと思ってました(笑い)

向井地 総選挙の時期はちょっとピリピリしますね(苦笑い)

竹下 かわいい子がたくさんいると、いろいろありそうですよね…。

向井地 自信を失っていく子が多いかもしれないですね。

竹下 へぇ~。

向井地 「自分よりかわいい子がこんなにいるんだ!」って、ネガティブな方向にいってしまう子も多いんです。それをポジティブに変えていく方法もあったら教えてほしいです!

竹下 バレーでもたくさんありますよ! 高卒で企業チームに入って「こんなところに来ちゃった…」とレベルの差に驚くところから始まりますし、練習のレベルも違います。コートに立てないとマイナスな方向にいく子もたくさんいます。なので、その子のいい部分を引き出してあげることかなと思います。「ある部分がもっと突き抜ければ使いどころがあるのに」と思うこともあります。例えば、サーブだけはめちゃくちゃすごいとなったら途中から出られますし、チームにとってどうやったら必要な存在になれるのか…というところまで、気持ちを持っていってあげたいといつも思っています。

向井地 キャプテンと選手を両立する難しさはありましたか?

竹下 年齢を重ねるとともに、キャプテンとかの役職もついてきたので、自分自身が大人になっていった部分と、我慢を覚えたかもしれないです。何かのタイミングでメンバーを見ていて、キャプテンは私しかいないんだなと思った時がありました。やるしかないんだと(笑い)。アイドルもそうだと思うんですけど、自分の個性は、どんどん出していいと思うんです。でもキャプテンをやっていると、個性を出し切ってしまうとダメな時もあるので、抑えるのは嫌だなと思うことは正直ありました。

向井地 なるほど…。あと、決断する時に大事にされていることはありますか?

竹下 今は、甘い方ばかりに逃げちゃうんですけど…(笑い)

向井地 意外です!(笑い)

竹下 現役の時は、とにかく甘い方向にいくのではなくて、道が二つあるのであれば、厳しい方にいこうといつも思っていました。自分が後悔しない選択をしたいと思っていました。

向井地 厳しい方に持っていけた原動力は何だったんですか?

竹下 例えば「アイドルになるべくしてなった!」という人もいるじゃないですか? バレーも、代表になるべくしてなったという選手もやっぱりいます。自分はそうではなくて、その世界で生きていくために頑張ってきたので、とにかく人を認めさせないといけないとか、自分の居場所を作らないといけないとか、成長をとにかくしていかないといけないという思いが強かったので、そういう道を選んだんだと思います。

向井地 著書「セッター思考 人と人をつなぐ技術を磨く」の中で「上にいけるようになったのは、1人1人が考えることから逃げなくなったことが前と変わったこと」とありました。メンバーみんながそう考えてもらうにはどうすればいいでしょうか?

竹下 私たちがロンドンで銅メダルをとった時のメンバーは、ある程度年齢や経験を重ねたメンバーが多かったんです。20歳の選手も、上に付いていけばいいという感じだったと思うんです。経験豊富なメンバーはコンディション調整も含めて、考えて行動できるので、それが結果につながった部分があったと思います。なので、ある程度の経験は必要だと思いますし、人から「考えてやりなさい」と言われて、考えることって結構大変なことなんです。

向井地 なるほど…。

竹下 最近だと、バレーのクリニックで小学生を教えると、指導者に答えを求める子が多いんですね。なので、教える時は「答えは自分で見つけなさい。考えて答えを出しなさい。答えは先生じゃない」という話をします。小さい時から考える癖がつけば、自分で何か行動に移すことにつながっていきますし、行動に移すことで変わっていく子もいます。

向井地 先輩たちの話を聞いていると、振り付けもただ教えられたことをそのまま覚えるのではなくて、自分の個性を出すとか、どうアピールするのか考えていたんだろうなと思います。自分たちで考えるべきだと伝えるべきですか?

竹下 難しい世界ですよね。グループの中で何位に入らないといけないという部分と、チームとして1つのものを作り上げていかないといけないと思うので、すごく難しいと思います。でもそこは、これはこれ、あれはあれと、切り替えが大事なのかなと。何か作り上げていくためにはみんなの力が必要ということは明確ですもんね。その持っていき方なのかなと。

向井地 あともう1つ…。キャプテンや監督だからと批判を受ける時はどう心を入れ替えていますか?

竹下 分かってくれる人は分かってくれると思っていました。シドニー五輪の出場を逃した時は、分かりやすく身長が低いことを批判されたり、戦犯扱いもされました。ただ、分からない人は分からないし、分かってくれる人は必ず1人、2人といるので、その人たちがいるということが救いになっていたと思います。言いたい人には言わせておけという、自分自身はそういう性格だったので、自分に合うやり方がいいのかなと思います。

向井地 最終的には分かってくれる人に支えられて、どうにか乗り越えてきたので、確かにそうかもしれないですね。改めて、竹下さんが思う理想のリーダーはどんな人ですか?

竹下 「信頼されるリーダー」だと思います。向井地さんは前回の話で、AKB愛があるとおっしゃっていましたが、そういうチーム愛がある人って、絶対チームをうまくまとめられる人だと思っています。愛があるからこそ、考えを落とし込んで、みんなをまとめようとしていく人なんだと思います。私は今から振り返ると、そこまで落とし込んで「キャプテンだからこうしなきゃ」というのも正直なかったようにも思うんです。向井地さんはすごくAKB48のことを考えていて、こうやっていきたいという思いが強いので、若いのにすごいなと思いました。

向井地 とんでもないです…ありがとうございます! 総監督になって1年半がたったんですけど、まだまだです。ちゃんとなれているのかな? とも思います。

竹下 そこは、人の評価だと思います。今のポジションは、終わってみないと分からないことがたくさんあるんじゃないかと思います。

向井地 いつか分かりますかね? 

竹下 一生懸命頑張っている方だから、きっとその先につながっていると思います。中途半端だと、後からこうしておけば…と思うものなので、今を一生懸命生きることが、先にもいきていくと思いますし、後輩たちの道しるべになっていくんだと思います。こんなかわいらしいのにすごいですね、本当!(笑い)

向井地 ありがとうございます! 最後に、竹下さんの今後の目標を教えてください

竹下 今は現場から離れましたが、変わらずバレーと関わる仕事をしています。コロナ禍でなかなか子どもたちと触れ合う時間もないんですけど、スクール事業とか、普及活動でバレー界の底上げができたらと思います。チームの中ではフロント側にいるので、チームのバックアップというか、何でも屋ではないですけど、自分の経験をチームのプラスになることがあればと思います。あとは2人の息子がいるので、何よりも彼らの将来に向けて、サポートできる準備をしていきたいです。

向井地 お子さんたちにはやっぱりバレーをやらせたいですか?

竹下 個人的にはバレーは…(苦笑い)。男の子で、主人も野球選手だったので、そっちの方がいいのかなと…。

向井地 球技なら何でもできそうですね! 楽しみです。今回は本当に、ありがとうございました!


◆竹下佳江(たけした・よしえ)1978年(昭53)3月18日、福岡・北九州市生まれ。96年、不知火女高(現誠修高)からVリーグ「NECレッドロケッツ」に入団。97年に日本代表へ選出。00年、シドニー五輪出場を逃し、一時一線を退くも、02年から「JTマーヴェラス」に入団し、日本代表にも復帰。04年に女性選手で初めてプロ選手に。同年のアテネから五輪3大会連続出場。05~09年にキャプテンを務める。12年のロンドン五輪では中心選手として銅メダル獲得に貢献。同年にプロ野球阪神、西武、広島で活躍した江草仁貴投手と結婚し、13年に現役引退。15年に長男、18年に次男を出産。16年に「ヴィクトリーナ姫路」の監督就任。今年4月から取締役球団副社長を務める。159センチ。


竹下佳江氏からリーダー論を学んだ向井地美音(撮影・大友陽平)
竹下佳江氏からリーダー論を学んだ向井地美音(撮影・大友陽平)
竹下佳江氏
竹下佳江氏