俳優草刈正雄(68)が、テレビ東京系主演ドラマ「おじさまと猫」(水曜深夜0時58分)で動物好きの自然な演技を見せている。エネルギッシュな役柄のイメージが強いが、今作で演じるのは猫との生活に心癒やされるピアニスト。猫を見つめる優しいまなざしは、愛犬と過ごす日常の草刈そのものという。昨年芸能生活50周年を迎えたベテランは、“家族”の存在を力に変えて走り続ける。

★イケイケじゃない役、癒やされ日常に近い

16年のNHK大河ドラマ「真田丸」や19年の連続テレビ小説「なつぞら」など近年国民的ドラマで存在感を発揮してきた草刈が、テレビ東京の深夜枠に初主演-。意外なニュースに感じられたが、本人は出演に好奇心をのぞかせる。

「(テレ東は)ひねった面白い作品をやられてますよね。そういった意味で、今回のお話も面白くなりそうな気もするけど、怖いなっていう気持ちもありました(笑い)。でも踏み切ってね、やりました」

妻に先立たれたピアニスト・神田(草刈)がペットショップで売れ残り猫のふくまると運命的に出会い、お互いの心を癒やしていくという物語。神木隆之介が声を当てる、愛らしいふくまるの姿にも注目が集まった。

「撮影に入る前にふくまるくんの動きを動画で見せてもらったんですけど、結構動くし表情もある。これは面白いなと思いました」

物事を深く考え込んでしまう神田に自分を重ね、「似てますね」と話す。

「極端な不安症だしね。考え方も非常にマイナス思考。ポジティブなところが全然ないんです、僕。物事をどんどん悪い方に考えていく。神田さんもそういうところを多少は持ち合わせている人だと思うんだよね。そういうキャラってあんまりやったことがない。イケイケのおじさんの役の方が多いのでね。どうやって映るかな、どうやって芝居ができるかなっていう楽しみがありました」

自宅では愛犬のチワワ2匹をかわいがる。生き物全般への愛がある。

「それはもう、手放しで動物は大好きです。アリは…どこかで踏んでしまっているでしょうけどね、例えばゴキブリだとか、どこかから入ってきた変な虫とか、僕は絶対殺さないですよ。娘たちがキャーキャー言っているのを、やめなさいよって言って好きにさせてます。だから僕の部屋はゴキブリだらけです(笑い)。蚊もそうだし。だからうちにいるペットはかわいくてしょうがないですよ」

キリッとした“ダンディー”の代名詞的存在だが、家では愛犬に目尻を下げっぱなしだ。

「『かわいい』とかそういうちゃんとした言葉じゃなくて、(なで回すしぐさで)ゴニョゴニョゴニョ…って訳のわからない言葉でこんなことやってますよ」

★娘の仕事は干渉せず 出演感想求めすぎ…

マイナス思考な草刈を助けるのも、家族やペットの存在だ。長女でタレントの紅蘭(くらん=31)は、18年に第1子を出産。草刈にとっては初孫となった。産後初のイベント出演では、紅蘭が草刈の溺愛ぶりを明かしていたが…。

「あいつ、盛るからね(笑い)。でもだんだん変なことしゃべったり、ちょこちょこ走りだしたりとか、動いてくるとかわいくなってくる。家も近いもんですから、ちょこちょこ遊びに来たりね。ジャンプしたり歩き回ったりするのを見ると、ああかわいいなって」

かわいがるだけではない変化もあった。

「孫がいるっていうことで、動くようになりましたね。ひとところに座るとあまり動かないものでね、僕は。それが彼女のためだったらおむつを取ってきたり何だかんだと動くようになりました。それは確かですね。いいと思います」

次女の女優麻有(まゆう=27)に話を移すと「あの子はもう、子どもから抜け出せないんだから」と、おじいちゃんから父の顔になる。今でも2人でテニスを楽しむ間柄だ。

「あれは運動神経がいいんですよ、うまく球を打てるし。2人でやれるっていうのはうれしいですね」

親子仲はいいが、お互いの仕事には干渉しない。

「(仕事の話は)あんまりしないね。僕もしないし。本読み付き合うよとか、できることはやるよとは言ってますけど」

家族は草刈の出演作を見ないという。

「家族に見せて感触を聞くタイプだったんです。最初のうちは見てくれてたんですけど、ものすごく僕がうるさい。どうだった? どうだった? って100回くらい聞くので。『よかったよ』って言われても、で、どうだった? って。それをずーっと繰り返すのでね。『もう面倒くさい。見ない』と言われました」

★ゆっくりしたいけどエネルギー復活必要

昨年は芸能生活50周年のメモリアルイヤーだった。長い役者人生では冬の時代も経験しながら、「真田丸」で演じた豪快な真田昌幸像がはまった。「なつぞら」では広瀬すず演じる主人公の祖父を好演し、“草刈おんじ”と親しまれた。再ブレークとの評価も素直に受け入れている。

「ありがたい。この世界にずっといて、こういうことが起きるんだと。この年になって想像もつかなかったですね」

縁に恵まれたと感じている。

「やっぱり出会いですよね。僕は全部それで(ここまで)来た。『真田丸』では三谷幸喜さんとの出会い。ああいう方との出会いが何度かターニングポイントみたいにあるんです。三谷さんに出会えて、仕事の内容がだいぶ変わってきましたね。その後、面白い役もいただけるようになりました」

古希も見えてきたが、映画、ドラマと出演作は絶えない。一線に立ち続けている。

「仕事についてはこの4、5年は本当にありがたいなと思ってます。その半面、せりふが追いつかなくてどんどん老人になってきて。またちょっとエネルギーを復活させないとと思ってるんだけどね」

では、エネルギーの源は何だろう。

「何だかんだ、やっぱり家族でしょう。自分1人のことなんてそんなのは過ぎちゃって。家族がいるからもうひと頑張りやるかっていうのはあります。ペットもいるからね(笑い)」

「長ぜりふが、もううんざりになっちゃって」と冗談めかしつつ、こう語る。

「ゆっくりしたいなって僕は言ってるんだけど、『いや、働きなさいよ!』とうちの社長に言われてさ…奥さんだけどね(笑い)。止まっちゃったらだらしがない、家にいたら無精者。そういうところを見るより、働いている方がいいんでしょう。家族はね」【遠藤尚子】

▼ドラマを担当する浜谷晃一プロデューサー

まず、天性のダンディーなルックスをお持ちである。それが映像を通した時、演技が伴ったときに、さらに奥行きをもって見る人をひきつけます。そして、ものすごく深く台本を読み込まれます。キャラクターの魅力や、シーンを構築するベストな演技を本当に考えていらっしゃって…その1つ1つの積み重ねが草刈さんの演じるキャラクターが多くの作品で魅力的であるゆえんなのだと実感しました。いつかテレビ東京でご一緒したいと思っておりましたが、今回は深夜ドラマで、しかも相手がぬいぐるみで、ほぼ全シーンでずっぱり…。大変な撮影だったと思いますが、やはり草刈さんでなければこのドラマは成立しなかった、そんな風に思えるすてきな「おじさまと猫」になりました。

◆草刈正雄(くさかり・まさお)

1952年(昭27)9月5日、福岡県生まれ。父は米国人で母は日本人。70年から資生堂専属モデルとなり、CM出演で一躍注目。74年「卑弥呼」で映画デビュー。ドラマは85年NHK「真田太平記」、映画は82年「汚れた英雄」などに出演。最近の出演作はTBS系「おカネの切れ目が恋のはじまり」など。17年、芸歴47年目で初の写真集発売が話題に。185センチ、血液型O。

◆「おじさまと猫」

妻に先立たれた世界的ピアニスト・神田冬樹(草刈)と、ペットショップで売れ残っていたブサ猫・ふくまるの心温まる日々を描く。ふくまるの声を神木隆之介が担当する。共演は小関裕太、武田玲奈、平山浩行、高橋ひとみ、升毅ら。

(2021年1月17日本紙掲載)