蒼井優(32)が「彼女がその名を知らない鳥たち」と「アズミ・ハルコは行方不明」で主演女優賞を受賞した。「彼女が-」では男たちに振り回されながら、その上を行く嫌な女を演じきった。「アズミ-」では28歳OLの、男や結婚に対する思いをシュールな映像に乗せ鮮やかに表現した。

 「彼女-」で演じた北原十和子は、男からもらった金で、だらけた生活を送り妻ある男と不倫する。自分の仕事のために他人への身体の提供を求める男、品性下劣で不潔な男、そして都合のいい不倫を求める男。その3人の男の上を行く嫌な女を演じた。

 「正直、私くらいだろうな。あんまりやりたいと思う役じゃないと思う。なんでしょうね…私、そんなに怖いものがないので、やってみようと思いました」。白石和弥監督(42)とは初めてだった。「とってもご一緒したい監督だったんです。みんなが白石監督のことを好きっていう現場でしたね」。

 男たちに振り回される十和子は、かわいそうでもある。「でも毎日、お金をもらって浮気する。その時点で最低だなって思いますけど」。最低の主人公を演じながらも「行動は最低なんですけど、心は純粋、子供なんです。十和子って、本当は“永遠子”だと思ってやってました」。

 クライマックスへ向かう中、十和子は包丁を買いに行く。刃を向けるのは、どの男か。「あれはミスリードできればいいなと思いながら演じていました。あと十和子に対する不快感をどこまでお客さんが耐えてくれるか。その計算をしながらやっていかなくちゃいけないから、今回はみんな疲れたと思います」。

 「アズミ-」は枝見洋子プロデューサー、松居大悟監督と同い年。「同年代の作り手が出てきたことがうれしい。トップに立つ人たちが同い年って、私たちの世代っていうのをすごく意識できるようになった。広い目で映画界を見ることができた」。主役の自覚十分の女優だ。28日の授賞式は、昨年の主演女優賞の宮沢りえ(44)から賞を受け取る。「りえ姉からもらえるの、うれしい!」。女優の顔から素に戻って、目を輝かせた。【小谷野俊哉】

 ◆蒼井優(あおい・ゆう)1985年(昭60)8月17日、福岡県生まれ。99年ミュージカル「アニー」で女優デビュー。01年「リリイ・シュシュのすべて」で映画デビュー。「花とアリス」「ニライカナイからの手紙」などに主演。06年「フラガール」で日刊スポーツ映画大賞新人賞、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞などを受賞。160センチ。血液型A。

 ◆彼女がその名を知らない鳥たち 自堕落な生活を送る十和子(蒼井優)は15歳上の陣治(阿部サダヲ)の稼ぎに頼って生活する。元恋人の黒崎(竹野内豊)を忘れられないが、デパート店員水島(松坂桃李)と体を重ねるようになる。白石和弥監督。

 ◆アズミ・ハルコは行方不明 生活や恋愛に疲れ失踪した春子(蒼井優)と、春子を探す張り紙をグラフィックアートにして町中に拡散する愛菜(高畑充希)たち。双方の視点から描く物語が交錯していく。松居大悟監督。

 ◆主演女優賞・選考経過 蒼井優が「ダントツにしびれた演技を見せてくれた」(伊藤さとり氏)「若いときは生々しく美しかったが、普通の女性を演じられる女優になった」(神田紅氏)「嫌な女の役をきちんとやっている」(寺脇研氏)など圧倒的な支持を得た。