石原裕次郎賞を受賞した「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督(34)は、憧れの北野武監督(71)から盾を手渡され、初対面を果たした。それだけで感激だったが、北野監督から「蛭子能収の漫画を見たようなヘタウマの境地。それがいい」と称賛され「ずっと忘れちゃいけない」と誓った。

上田監督は、憧れの北野監督から盾を贈られると、全身汗まみれとなった。強烈なメッセージが胸に刺さった。

北野監督 一昨日、見て、非常にうらやましかった。蛭子能収の漫画を見たようなヘタウマの境地。役者も下手だし、みんなヘタ…この良さがないとダメ。

新人監督がオーディションで選んだ12人の無名の俳優とのワークショップを経て、わずか300万円で製作した映画の作品性を評価された。石原まき子さんからも「本当に製作費は300万円? すごいですね」と驚かれた。

高校卒業後、滋賀県長浜市を出て大阪の焼き肉屋でアルバイトしていた時、バイト先の先輩から、高校3年時に作った自主映画を北野監督が立ち上げた「オフィス北野」が評価していると聞かされた。一瞬、舞い上がったが、その後、先輩のウソと分かり、バイトを辞め、映画監督を真剣に目指した。上京して15年。北野監督本人からエールを送られ「見てくれた。おっしゃった言葉はずっと忘れちゃいけない」と喜びをかみしめた。

昨年11月に都内で6回のイベント上映しか予定されていなかった映画が、6月23日に都内2館の映画館で封切られてから189日で興行収入31億円超、全国350館超で公開と、日本映画史に残る大ヒットとなった。現在、合作映画の製作と並行して、24日まで次の長編映画のオーディションを行う中、複数の映画会社から声がかかるなど引っ張りだこだ。

北野監督から「(1度、成功し)慣れてくると不思議にミスできなくなる。お金を持って作っちゃうと失敗する。作る姿勢は曲げないで素直にやれば、見ている人は見てくれる」とも言われた。

上田監督は「ここからが、本当の自分の戦い。『カメ止め』の上田慎一郎を超えるために走りだす。日本ならではの王道エンタメのマスターピースを作りたい」と力を込めた。【村上幸将】