フジテレビ系「TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020」に出演した女子プロレスラーの木村花さんが5月23日、22歳の若さで亡くなった。木村さんは同日未明、インスタグラムに「毎日100件近く率直な意見、傷ついたのは否定できなかったから。死ね、気持ち悪い、消えろ、今までずっと私が一番に思ってました」などと投稿。年明け以降、SNS上で木村さんへの番組内での言動などを非難するような投稿が相次いでいたことが分かっており、これまでも社会的な問題と指摘されてきた、SNSによる誹謗(ひぼう)中傷への批判が高まっている。

SNSによる誹謗中傷が、いかに心身にダメージを及ぼすか…それは実際に体験してみないと分からない側面があるかもしれない。記者は過去、幾度かツイッター上で、誹謗中傷を受けたことがある。1日200件程度の誹謗中傷が10日程度続いたこともあり、その時は、最終的になくなったのは約3カ月後だった。誹謗中傷の理由は、原稿が気に入らない、もしくは原稿をリツイートしたことが気にくわないという趣旨のものだった。

誹謗中傷を受けた幾つかの原稿は、いずれも、ある事象を取材し、そこに関わった人から直接、話を聞き、事実関係を確認した上で、そうした事象があったと書いた、ただそれだけのものだったと認識している。賛否両論がある事象を取材した自覚はあったが、原稿が表に出た段階で

「お前に記者の資格はない」「記者やめろ!」「消えろ」などのツイートが相次いだ。「一方的なことを書くな!」というツイートもあったが、取材拒否でもされない限りは双方の意見、主張を盛り込み中立の立場で書いているつもりだった。「こいつの名前は覚えておく。絶対に忘れないし、許さない」というものまであった。一連の誹謗中傷は全て無視したが、その時期はツイッターを見る度に通知があり、その大部分が誹謗中傷だったと記憶している。

SNSによる誹謗中傷は、匿名で、いつでも、しかも唐突に行うことができ、都合が悪くなったらアカウントを削除して“やり逃げ”も出来てしまうことだ。 爆笑問題の太田光は、5月17日のTBS系「サンデー・ジャポン」(日曜午前9時54分)で、検察庁法改正案に抗議する発信をした一部芸能人に対し、ツイッター上で批判の声が出たことについて「ツイッターの問題がある」と指摘。「分別のある大人にしても、現実の社会じゃ絶対にしない…道を通り掛かっている人に、そんな礼儀知らずのことはしないと思う。分別のある大人が、ツイッターでは、そういうことをする」と批判。「こいつ(ツイッター上で批判する人々)の言うことなんか、聞く必要、全くないよ」とも言っていた。

ただ、誹謗中傷を受けて、無視できる人と、そうでない人はいる。SNSに誹謗中傷が殺到した人に対し、「スルーすればいいのでは」などという人もいるが、被害に遭っている当事者と第三者の間に大きな温度差がうまれがちなことも、この問題を深刻化させる要因の1つではないかと感じている。

インターネット上で権利侵害に当たる投稿がなされた人を救済するため、2002年にプロバイダー(接続業者)責任制限法が施行された。ただ、プロバイダー側に発信者情報の開示を求めても開示されないケースも多く、開示を求めて訴訟を起こせば時間がかかるなど、被害者の負担が大きいことを問題視する声も上がっている。

高市早苗総務大臣は、5月26日の記者会見で制度改正を急ぐ考えを示し、自民党も1日から議論を進め、情報開示手続きの簡素化を目指している。ただ、厳罰化を求める声が出ている一方、表現の自由の侵害への懸念の声もある。

18年前のプロバイダー責任制限法施行当時は想定されていなかったSNSがこれだけ普及している以上、制度改正に関する議論が必要になってくると思われる。今、この瞬間も、誹謗中傷を受けたという怒りや悲しみのツイートが、タイムライン上には流れている。