ついに取った、団体金メダル-。体操界のエース、内村航平(27=コナミスポーツ)率いる日本男子が、04年アテネ大会以来3大会ぶりの団体総合優勝を果たした。予選で4位と崩れ、決勝もスタートのあん馬と続くつり輪で出遅れたが、その後はミスなく高得点を続けて逆転。最後は内村の床運動で締めた。個人総合で無敵を誇りながら、こだわり続けた団体金メダル。「チーム内村」が悲願を達成した。

 内村の大きな声が、会場に響いた。5人で上がった表彰台。「声が裏返るくらい大きな声で歌おう」と言うと、4人も後に続いた。夢に見た五輪での君が代合唱。個人総合で勝ったロンドンとは違う。今まで見せたことのない笑顔で5倍の喜びに浸り「うれしいを超えています。北京、ロンドンと取ってきて、一番重いメダルです」と言った。

 6日の予選は4位。ミスを連発し、内村自身も鉄棒で落下した。「予選1位なら50%金メダル」という青写真が崩れた。疲れのたまる最終種目が負担の大きな床運動になるローテーション。審判の「4位」の印象もあって、誰もが金メダルは遠のいたと思った。

 内村自身も厳しいのは分かっていた。スタートのあん馬で山室が落下。続くつり輪も得点が伸びなかったが、踏ん張った。跳馬の大技「リ・シャオペン」で流れを作ると、平行棒、鉄棒と高得点をマーク。チームを引っ張り、ロシアを逆転してトップに立った。

 最後の床運動。気力を振り絞って最終演技者を務めた。疲労はピーク。「着地を止めにいったけれど、足がもつれてそれどころじゃなかった」。演技後は、そのまま両手を膝についた。他国の得点が伸びず、逃げ切り優勝。「今は疲労感しかない」と言いながら、表情には充実感があふれた。

 ロンドン五輪、採点の見直しで4位が銀になったが「金でなければ銀も4位も同じ」と悔しさをあらわにした。「ロンドンで団体金をとったら引退していた。一番いい時期に一番いい結果を残してやめるつもりだった」。引退を撤回し、4年間「団体金メダル」だけを追い求め、チーム全員が共有してリオ入りした。

 団体へのこだわりを「日体大だからじゃないですかね」と話す。高校までは個人競技だと思っていた。団体は意識しなかった。しかし、日体大は違った。普段からレギュラー6人が一緒に練習し、声を掛け合ってチームを作る。さらに、団体金メダリストを数多く輩出してきた伝統もある。畠田監督は「試合の前に団体戦の大切さを話すことはある」と言う。内村の体操に対する意識が変わった。

 塚原直也氏に憧れて、朝日生命クラブ入り。高1の時、その塚原氏のアテネ五輪で団体金メダルをテレビで見た。「いつかあの舞台に」と誓って12年、夢は実現した。「アテネとは違う勝ち方だったけれど、僕たちで新しい歴史を作れた」と胸を張った。「美しい体操は当然で、爆発的に点をとれる選手もいる。20年につながる」。内村は体操の未来に期待して言った。【荻島弘一】

 ◆04年アテネ五輪団体決勝VTR

 日本は鹿島、水鳥、中野、冨田、塚原、米田。最初のゆかで7位と出遅れたが、2種目目のあん馬で3位に浮上。5種目目までに首位ルーマニアに0・063差に迫り、3位米国とも0・062の僅差。最終種目の鉄棒で米田、鹿島、冨田に日本の命運が託された。ルーマニアは2番手の演技者が落下し、米国も伸び悩む。日本は米田、鹿島が高得点を出し、最終の冨田もスーパーE難度のコールマンを成功させて逆転の金メダル。冨田の着地の際、実況したNHKの刈屋アナウンサーが「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ」と発し、話題となった。