コロナショックという言葉が当てはまるビジネス界。そしてそれはスポーツのビジネス界にも言えることであります。

様々なイベントが中止となり、チケット収入は未だ見込めず、さらには選手のサラリー・マネジメントにも大きく影響を及ぼしている状況のなか、今回フォーカスしたいのは放映権売買とその周辺にある事象です。

コロナ前はイングランド・プレミアリーグの放映権が年間約4180億円を記録したという報道が出るほど加熱していた放映権ビジネスですが、ヨーロッパのトップ5を見てみると次のようになります。


◆1位 イングランド/プレミアリーグ 年間約4180億円

→放映権分配により、トップクラスのクラブで約200億円近くが、下位クラブでも約130億円前後が分配されている


◆2位 スペイン/ラ・リーガ 年間約2378億円

◆3位 ドイツ/ブンデス・リーガ 年間約1671億円

◆4位 イタリア/セリエA 年間約1524億円

◆5位 フランス/リーグ・アン 年間約949億円


今年6月に現地でレポートされた報道をベースに並べてみるとこのような形になりますが、1つ疑問になることがあります。チケット収入が見込めないということは試合を見る方法がテレビもしくはインターネットでの放映でしかなくなるということになりますから、その映像こそ今となっては試合を見る唯一の方法になってしまったのではないか? ということです。

そのような中、DAZNが日本・東南アジアにおける欧州チャンピオンズリーグ(CL)の放映権を手放したというニュースが駆け巡りました。また、フランス/リーグ・アン(1部とリーグ・ドゥ(2部))ではすでに今シーズン(2020-2021)から年間8億2860万ユーロ(約1035億7500万円)の4年契約という形でメディアプロという会社が落札していたのですが、コロナでメディアプロが事実上の破綻。さらにはこのために立ち上げたテレビ局は6ヶ月という短さで急遽閉局するなどパニック状態であることが報道されました。

結局のところ、一般顧客の財布が締まってしまう以上、そこからは収入(売り上げ)を見込むことができないという現状があるために、本来価値がつくべきものに対して、支払いがついてこないという現象が起きてしまいました。間に入るエージェント会社が高く売ることを目的としてうまく調整しきれなかったというのが実情ではあるものの、ファンとしてみればガッカリな結果となりました。

CLはUEFAのオンラインTVでの配信が頼りにされているなど、急ピッチでコンテンツホルダーが動く形になったのではありますが、この先これをどのようにマネタイズしていくのか、高い注目が集まっています。

一方で放映権にまつわる、驚くようなニュースもありました。アメリカのボクシングの元世界王者マイク・タイソンが54歳にしてエキシビションマッチとはいえ現役復帰を発表。この試合の放映権を5000万ドル(約53億5000万円)超でアメリカのSNSプラットフォーム会社が落札しました。この会社のプラットフォームはいわゆるアメリカ版のTikTokといわれており、この試合のPR動画が短時間で100万回再生を記録するなど話題となりました。

試合そのものが当然最も価値のあるものですが、その放映を本業としていない短編動画配信会社が落札したことがポイントになります。マイク・タイソンやその対戦相手が現役でなかったということもありますが、今後のフットボール業界もお金になる部分は一体どこなのか? というところが改めて見直される可能性はあります。コンテンツを販売する方も、購入する方も当分の間は探り合いが続くとは思われますが、既にアマゾンが試合前後のドキュメンタリー番組の制作に活路を見出したように、何か新しいコンテンツ・新しいフットボールの見方・捉え方、その加工の仕方に期待されるのではないかと思います。

【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)