冬の風物詩、全国高校サッカー選手権出場を懸けた予選が佳境を迎えている。
10月19日、神奈川県2次予選3回戦が行われた。2年ぶりの全国切符を目指す日大藤沢が、日大との同門対決を2-1で制し、準々決勝へ駒を進めた。
■神奈川で2年ぶり切符目指す日大藤沢
1点を先制された日大藤沢は前半31分に左CKからMF野口慶人(3年)が直接ゴールに決めて同点とすると、後半27分にDF小林昴瑠(3年)のクロスボールをDF入谷友陽(3年)が頭で押し込み勝ち越しに成功。運動量豊富な日大高の粘り強い攻守に苦しみながらも勝ち上がった。
その日大藤沢には、日本代表やJリーグで活躍したレジェンドプレーヤーを父に持つ2人の選手が出場していた。
1人は父が藤本淳吾(41)。清水、名古屋、横浜、G大阪、京都、SC相模原と渡り歩き18年プロでプレー、日本代表でも13試合(1得点)に出場している。その息子のFW藤本歩優(あるま=3年)は、右の2列目で先発出場して終盤までプレーした。
もう1人は父があの中村憲剛(44)。川崎フロンターレ一筋18年、数々の栄光を手にした筋金入りのレジェンドである。日本代表では68試合(6得点)に出場し、ワールドカップ(W杯)にも出場している。その息子のMF中村龍剛(りゅうご=2年)は、後半36分からトップ下に入った。
■藤本歩優、スピード生かした仕掛け
藤本はスピードを生かしたプレーが特長。一発勝負のトーナメント戦という特有の雰囲気もあり、堅さが見えた前半は思うようなプレーができなかった。
1-1で折り返した後半は、右サイドから縦に持ち出しゴール前へのクロスボールを再三に渡って供給するなど好機を演出。さらに後半30分にはドリブルで右から中央へ持ち込み、前が空いたタイミングで左足でシュート。惜しくもボールはゴール上に外れた。1点リードの同36分にベンチに下がった。
試合後は「前半は消極的なプレーになってしまって、ハーフタイムにチームメートからもっとクロスを上げてくれと言ってくれた。それでちょっと気持ちが楽になったというか。前半は上手くやろうとする気持ちがあったけど、後半は修正できて“自分らしいプレー”ができたのかなと思います」
プレースタイルは父子で異なる。「悪魔の左足」とも呼ばれた正確無比なキックを武器としたファンタジスタの父に対し、息子は縦へのスピードを生かしたプレーやクロスが持ち味だ。
佐藤輝勝監督の藤本評はこうだ。
「仕掛けもスピードもあるし、いいものを持っています。今日はクロスを上げるという外からの仕掛けに徹してくれましたけど、もっと柔軟に中に入ってきたり、(ペナルティー)エリアに入っていける怖い選手になってくれれば」
そんな成長株の藤本にとって、父は大きな後ろ盾だ。この日も会場で見守っていた。いつも何かとアドバイスをしてくれるのだという。
「動画を送ると改善点を返してくれたり、真摯(しんし)に向き合ってくれています。普通のお父さんとしてもすごくうれしい。やっぱりサッカー選手だったから目線が上から(俯瞰するように)いいアドバイスを言ってくれますね」
父はライバル桐光学園出身。なのになぜ? 日大藤沢へ。その進路については「歩優が行きたいところを選びなさいと言ってもらえた」。そこで練習会の時の楽しくも緊張感ある雰囲気に惹かれ、選択したのだという。
ちなみに父は世代別代表の常連だったが、全国高校選手権には縁がなかった。
「俺はPKを外して負けたから、PKで負けんなよって冗談混じりに言ってくれます。全国大会はおまえらの代はちゃんとやれば行けるからって、熱い思いを持って言ってくれますね」
何かと気に懸けてくれる父への恩返しの意味も含め、最終学年での全国大会出場に意欲を燃やしている。
■中村龍剛、3D的感覚持つパサー
一方、2年生の中村はベンチスタートだった。
明るい性格のムードメーカーでもあり、ピッチ外から大きな声でチームを盛り上げる姿はどこか父と重なるものだった。終盤の後半36分、トップ下のMF平島翔海(3年)と交代。本来はボランチの選手だが、1列前の攻撃的な位置でプレーした。
1点を守り切る時間帯だったため前から積極的にボールを追い、マイボールとなれば縦へボールを入れたり、コーナー付近へドリブルでボールを持ち込むなど試合を閉じる「クローズ」の役回りに徹した。
試合後は「難しい試合になることは分かっていました。今日はトップ下でしたけど、どこかで自分がチームの力になれたらと思っていました。3年生は負けたら引退ですし、自分が本当に数分であろうともチームのためにやるべきことはやれたと思います」。
まさに父譲りのプレースタイルだ。
佐藤監督は「俯瞰(ふかん)して見える選手、いわゆる3D的な感覚を持っている。中盤以降のところを動かして、剥がしていくタイミングのところでスルーパスが出せる」と評する。
それに対し、中村の見解はこうだ。
「昔からずっと見てきているので、勝手に真似ているというか、自分が似ちゃったみたいな。そんな感じだと思います。一緒にサッカーを見て、プレーについて意見を交わし合ったりするので、いい関係なのかなと思います」
偉大な父と何かと比較され、嫌になったりすることはないのだろうか。その問いには「昔はちょっとありましたけど、今は“自分は自分”だと思ってサッカーができているので、そこまで嫌なことは感じていないです」と回答した。
自身の武器はもちろん「スルーパスだったりゲームをつくるところ」だ。加えて「自分はあまり体が大きくない方(170センチ、62キロ)なのでしっかり予測してボールをカットするところとか。守備はまだ課題なんですけど、そこを見てほしいかなと思います」。
パスサッカーの日大藤沢とあって中村の特長が生きる環境にある。加えて明るい性格もあって2年生ながら遠慮もない。父が東京・都立久留米(現東久留米総合)で届かなかった全国選手権への強い思いを抱いている。
「日藤は一体感を大切にするチームなので、個の力ももちろんみんなあると思うんですけど、やっぱり1つ1つの練習に対する熱量であったり、そういう気持ちっていうのを練習中からみんなが出していけば、おのずといい練習だったり、試合、そして結果につながっていくと思うので、そこが全国へ行くポイントになるかなと思います」
ピッチを俯瞰する若者は、そのプレースタイルさながらに全国を狙うための要点を突いてみせた。
■宿命は受け入れるも気負いなし
いやも応もなく2世選手は注目される。同じ競技。父の姿を重ね合わせられ、何かと比較される。
ただ名選手の息子という宿命は受け入れるも、「自分は自分」という気負いのないスタンスが彼らにはある。
父について、藤本は「プロの世界で活躍していた人なので正直、一サッカーファンとして見てしまうぐらい」。そう言う屈託のない笑顔が、何よりの証左だろう。
父のためのサッカーではなく自分のため。そもそも自らが人として成長する上でのサッカーに他ならない。少年から大人へ、その過程でプレーに終わらず内面もまた磨かれていく。
高校サッカーに“1世”も“2世”もない。「自分は自分」。自分らしく全力でプレーすることを、誰もが期待している。【佐藤隆志】










