ワールドカップロシア大会はNHKと民放テレビ局で全64試合が生中継される。2002年日韓大会からジャパン・コンソーシアム(JC=NHKと民間放送局の共同制作機構)が広告最大手の電通を通じFIFAから放送権を購入し、民放各局もW杯の放送を手にするようになった。連載「フットボールの真実」の今シリーズは、知っているようで知らない「W杯とテレビ」の実情に迫る。

 W杯の放送権料が高騰し続けている。関係者によると、ロシア大会でJCがFIFAに支払う額は前回ブラジル大会から1・5倍にはね上がり、600億円とされる。

 日本で初めてW杯が放送されたのは1970年のメキシコ大会。東京12チャンネル(現テレビ東京)の単独放送で放送権料は8000万円だった。74年の西ドイツ大会も東京12チャンネルで、2億円だった。FIFAは78年アルゼンチン大会からアジアでの普及を掲げ、6大会一括の放送権をアジア放送連合を通じて、日本全国で視聴可能なNHKに販売。NHKが98年のフランス大会まで単独放送し、6億円だった。

 それが02年の日韓大会から急激に高騰する。JCが、FIFAから電通を通じて一括購入する形式が始まり、日韓大会は10倍の60億円、06年ドイツ大会は140億円、10年南アフリカ大会が170億円。14年ブラジル大会は400億円にまで高騰し、CS放送が撤退。今回は600億円で、テレビ東京が中継を断念した。

 高騰する背景には大会の大型化がある。ロシア大会は全出場チームへの準備金150万ドル(約1億6500万円)に加え、1次リーグ敗退でも800万ドル(約8億8000万円)が支払われる。結果に関係なく出場するだけで約10億円が入るのだ。02年の日韓大会は、準備金が100万スイスフラン(約7500万円)、1次リーグ敗退でも460万スイスフラン(約3億4500万円)の出場給があった。約3倍である。

 また、優勝賞金3800万ドル(約41億8000万円)も02年の日韓大会から約3倍に上がっている。FIFAは収益の大半を放送権料に頼っており、発展途上国へのボールの寄付などのボランティア活動や、全世界の被災地への寄付なども、これで得た収益が軸になっている。

 放送権料の値上がりは民放各局も頭を抱える。日本民間放送連盟(民放連)は、南アフリカ大会から2大会連続でW杯の民放収支が赤字になったと発表。放送権料の民放負担分と番組制作費の合計が広告収入を上回った形だ。ロシア大会も「赤字確定」と嘆く。

 ちなみにブラジル大会は全世界での放送権料の総額は2000億円。その5分の1を日本が支払っていることになる。関係者は「電通がFIFAに言い値を押しつけられている。だがその分、キックオフ時間を日本との時差を考慮し調整してもらえるなど融通は利く。試合の放送のスポンサーもしっかりあっせんしている」と内情を明かす。

 今後も高騰は止まりそうもない。26年大会(開催地は6月決定)から出場国は48カ国に増え、関係者は「初出場の国や地域で盛り上がるほか、試合数が増えることでさらに高騰する」と言う。FIFAは将来的にコンフェデレーションズ杯を廃止し、クラブW杯を現行の7チームから24カ国に増やす計画も持っている。こちらにも大幅な収益を期待しているという。

 ある民放関係者はDAZNなどネット配信メディアの台頭を挙げ「放送権が高騰し続けたら有料のメディアでしかW杯が見られない時代が来るかもしれない」と危惧する。W杯もクラブW杯もお茶の間では見られなくなる日が近いのかもしれない。【岩田千代巳】(金額は推定)