長く続けていることがある。

岩手県大船渡市を訪問することだ。長いと言っても、4年目。オリンピックの周期1回分だ。そう考えると短い気もするし、長い気もする。


大船渡市での東北「夢」応援プログラムの様子
大船渡市での東北「夢」応援プログラムの様子

訪問する頻度は、1年のうち2回または3回。回数が重なると地元の知り合いも増えていき、訪問するのが楽しくなる。

これも東北「夢」応援プログラムのおかげだ。このプログラムは、公益財団法人東日本大震災復興支援財団が主催していて、アスリートが子供たちにスポーツなどの指導をするというものだ。そのやり方も「最近」の手法で、最初と最後は現地に行って直接指導するのだが、基本は月1回の遠隔指導で行う。現地に行けなくても、「スマートコーチ」という動画送信ツールを使用することによって、実際に会ったように指導ができる。

私はプログラムの「夢応援マイスター」として、送られてきた動画にコメントや指導のメモを付けて返信する。子供たちも私の声を聞くことでリアリティーが生まれ、コメントを読んで自身の泳ぎを振り返ることができる。だから上達が早い。1年経過したときの成長には著しいものがある。

その月1の動画を私もとても楽しみにしていて、子供たちのメッセージに私自身が元気づけられることがほとんどだ。この手法なら物理的な距離の問題を解決してくれるし、私にとっては、どこでもいつでもできる!という点でとてもポジティブな取り組みの1つになっているのだ。

先日訪問したのは、この1年のキックオフイベント「夢宣言」のためだった。「今回はどんな子供たちなのかな」とリストを見ると、小学1年生から中学生。泳いで指導をしていると、子供たちは私の側に寄ってきて家族の話をしたり、お父さんの年齢を伝えてきたり、本当にいろんなことを話してくれる。

でも、プールサイドで初めて会ったときは、カッチカチで緊張感あふれる表情だった。「シャイな子供たちが多いかな」そう思っていたが、「プールに入るよ!シャワー浴びてきてね!」。この言葉を聞いた瞬間、笑顔がはじけるのだ。不思議なものだ。

こんなとき、いつも思うことがある。私は講演もさせてもらうのだが、途中で少し運動を入れるようにしている。ただ座って話を聞いているだけよりは、少し運動したほうが、人生経験の多い大人でさえ笑顔になる。体を動かすことが元気を生むと感じるのだ。

だから、いつも水泳レッスンは活気にあふれる。

キックもっと大きくしてね! その言葉に一生懸命、体を目いっぱい動かす子供たちは本当に輝いている。スポーツを通して、という言葉があるが、スポーツが若者はもちろん世代を問わず大きな役割を果たすのだといつも思う。

「頑張る」スポーツは「苦しい」スポーツではないのだ。楽しいから頑張れる。頑張るから楽しい。


大船渡市での東北「夢」応援プログラムの様子
大船渡市での東北「夢」応援プログラムの様子

子供たちの「夢宣言」で今回多かったのは、「大船渡のこのきれいな自然をずっと残していきたい」という言葉だった。これを聞いて、子供たちが描く未来はどんな世界であって、今の世界はどう見えているんだろうと思いをはせた。

ある著名な漫画の作家さんが言っていた。「妄想すること、イメージすること。これを子供の時にできるか。自分は常に見えない世界を思い描いてそれを作品にした」。なんでも調べれば分かる時代になったが、誰も誰かの未来を決めることはできないし、知らない世界はまだたくさんある。子供たちにそのことを知ってもらいたいと思った。

水泳というスポーツを通してのたった1つのイベントではあるが、この復興プログラムで私自身も多くのことを学んでいる。参加する子供たちにも、夢ってなんだろう。未来ってなんだろう、と考えてもらうきっかけになればと思っている。

楽しみな1年が、また始まった。大船渡のみなさん、今年もよろしくお願いします!

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)