またこの季節がやってきた。陸上日本選手権が23日、大阪・長居陸上競技場で開幕する。国内の高速トラックといえば、織田記念国際のエディオンスタジアム広島、布勢スプリントの鳥取・コカコーラウエストスポーツパーク、そして長居だろう。長居では昨年9月に山県亮太が男子100メートルで自己ベストの10秒03(追い風0・5メートル)をマーク。男子100メートル決勝が行われる24日の天気は週間予報で曇りとなっている。

 優勝候補は、やはり桐生祥秀だろう。中盤の加速が持ち味の「ジェット桐生」は、今年に入って10秒0台を3度もマーク。日本選手権優勝は14年だけだが、15年はけがで欠場、16年は決勝のレース中に右足がけいれんして3位。アクシデントさえなければ、コンスタントに10秒0台を出す力は他をリードしている。9秒台に最も近い選手であることに疑いはない。

 対抗には、ケンブリッジ飛鳥を挙げたい。後半の爆発力は折り紙付き。昨年の決勝はラスト20メートルの鮮やかなまくりで、山県を0秒01差で差した。4日の布勢スプリントで世界選手権参加標準記録10秒12をクリアしたことも大きい。これで向かい風や雨などの気象条件に左右されるタイムを気にすることなく、勝負に集中できる。気持ちも楽になったはずだ。

 山県は、右足首のけが明けでぶっつけ本番となった。3カ月ぶりの大会となる日本選手権は23日に予選と準決勝、24日に決勝と2日間で3レースを走る。自慢のロケットスタートと勝負強さは抜群だが、レースを重ねた際、右足首の耐久度に未知数な部分が残る。3本目の決勝で10秒05前後が必要となれば、少し分が悪いかもしれない。

 追い風参考9秒94の新星、多田修平は話題をさらっているが、現実的な目標は表彰台になるだろう。

 密かに注目しているのは、京都・洛南高3年の宮本大輔だ。16日に全国高校総体近畿地区予選で10秒23(追い風0・6メートル)を記録した。これは10秒01の桐生、10秒22のサニブラウンに次ぐ高校歴代3位タイの好タイム。伸びやかで1歩1歩で大きく進む走りで自己記録を伸ばしてくるようならば、15年に高校2年生で2位になったサニブラウン・ハキームに続いて、高校生表彰台のサプライズも見えてくる。

 12年ロンドン五輪の時、桐生は高校2年だった。当時の五輪日本最速10秒07を出した山県の走りにテレビで見て、尊敬の念を抱いたという。当時、一般的には「無名」だった桐生は、翌13年4月に日本歴代2位の10秒01をたたき出した。つまり16年リオデジャネイロ五輪をテレビで見た「無名」のスプリンターたちが、20年東京五輪で主役を張っても不思議はない。【益田一弘】

 ◆益田一弘(ますだ・かずひろ)広島市出身、00年入社の41歳。大学時代はボクシング部。陸上担当として初めて見た男子100メートルが13年4月、織田記念国際の10秒01。昨年リオ五輪は男子400メートルリレー銀メダルなどを取材。

桐生祥秀(2017年5月26日撮影)
桐生祥秀(2017年5月26日撮影)