競技生活46年目の大ベテランも、コロナ禍によるブランク明けの心境は格別だった。アーチェリー男子のオリンピック(五輪)2大会メダリストの山本博(57=日体大教)が、横浜市内で14日に開催された全日本連盟公認の記録大会に出場した。激しい雨にさらされる悪コンディションだったが「気心の知れた選手と一緒にできたので、気持ちが高ぶりました」と、2カ月半ぶりの実戦に緊張と興奮を隠せなかった。

出場したのは、70メートルの的を狙う男子リカーブの部(72射、720点満点)。今季初戦を迎えた57歳は「前日はよく寝付けず、ユニホームや弓具などの荷物の点検を何度も行いました」と、懐かしい思いがよみがえった。試合感覚が空いた影響で序盤は苦労したが、後半は1本1本丁寧に撃つことを心掛けた。20人中2位の645点だったが、目標点数を30点近く下回った。

本来ならこの日が今季13戦目に当たる。新型コロナウイルスの影響で他の試合は中止、延期が余儀なくされた。3月下旬に横浜市内で行われた試合を最後に、実戦から遠ざかっていた。「こんなに実戦から離れたのは、(2016年に)右肩の手術をして以来。運動自体も制限され、メンタルを保つのが大変だった」と明かす。

外出自粛期間中は自宅で筋力トレーニングに明け暮れ、5月の大型連休以降は拠点先の大学施設で1人練習に打ち込んだ。「高校、大学も全体練習が終わると、個人練習を黙々とやった。若かりし頃を思い出したね」とコロナ禍でも成長につながる経験ができたと手応えを感じている。

来夏に延期となった東京五輪代表選考会は既に敗退しているが、60歳を超えて迎える24年パリ大会を目指す。コロナ禍でもぶれることはない。28日には同じ横浜市内の会場での大会に出場する。「とりあえず夏に向けて徐々に試合感覚をつかみ、目標点数に近づけたい」と意気込んだ。

記者の前回の現場取材は、3月22日に静岡県掛川市内で行われたアーチェリー代表2次選考会までさかのぼる。その2日後、東京五輪・パラリンピックの1年延期が決定した。以来、現地に行って取材をする機会はなくなり、オンライン取材が主になった。

いくらオンラインが普及しつつあるとはいえ、スポーツは現地取材が醍醐味(だいごみ)だ。表情や話し方、声のトーン、行動やしぐさ…。そこで気づいたことを質問しつつ、五感を頼りに取材相手の言葉の裏側に迫る。飽くなき挑戦を続ける山本の顔には、この舞台に戻れたうれしさと充実感が満ちていた。57歳のベテランの姿に、改めて現場の魅力を実感した。

【平山連】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「WeLoveSports」)