柔道事故を巡って、全日本柔道連盟(全柔連)が内部通報の対応義務を怠ったとして、福岡市の男性(18)とその父親(48)が19日、全柔連にそれぞれ165万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。

訴状によると、当時中学生だった男性は14年10月、福岡市にある道場の男性指導者から片羽絞めをかけられて失神した。男性はその後、迷走神経性失神、前頸部(けいぶ)擦過傷の診断を受けた。父親はこの件について、福岡県柔道協会に相談したが、被害者と加害者の説明が食い違い「事実関係を両者で話し合ってから来い」などと言われた。父親は翌11月に全柔連の内部通報窓口(コンプライアンスホットライン)に相談したが、福岡県協会に調査を依頼。事実上無視された形で、全柔連は被害者への聞き取りをせずに「指導者への説明は信用出来る」とした福岡県協会の調査に基づき「問題ない」と判断した。

この日、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を行った原告の父親は「全柔連は被害者の話を全く聞かず、自ら調査を行わないなんて本当に頭にくる。裁判は出来ればしたくなかった。あまりにも対話をしてくれなく本当に残念。息子は死の恐怖を味わい『走馬灯を見た』とまで言っている」と述べた。全柔連は13年に女子代表監督らの選手への暴力・ハラスメント行為が問題となり、暴力などの相談を受ける内部通報窓口を設置した。これを受けて父親は「しっかり向き合ってくれる組織で、最初は『こういった窓口があって良かった』と思ったが、全くの期待外れ。本当に信じられない。名ばかりで、こんな看板なら、ない方が良いと思う」と怒りに身を震わせた。

この事故を巡る損害賠償訴訟に関しては18年6月に指導者が4万4000円を支払う判決が確定している。