今月2日にラグビーのワールドカップ決勝を横浜国際総合競技場で観戦してきました。最寄り駅から車いすで会場へ移動する途中、外国人たちのどんちゃん騒ぎに何度か遭遇しました。歩道に広がり、たむろしてビールを飲んでいるため、通路はふさがれ、周辺は空き缶やたばこの吸い殻が散乱して、ゴミ箱をひっくり返したような惨状に、観戦前の盛り上がっていた気分が白けるような残念な気持ちになりました。

会場に到着すると今度は大混雑で、なかなか通路を進めません。すると私を目にした外国人たちが次々と「車いすの人が通るから道をあけて」と声を上げて進路をあけてくれたのです。ついさっきまで「行儀が悪い」と感じていた海外のお客さんたちが、マナーよく助けてくれたのです。日本と海外の文化の違い、マナーの感覚の違いを身をもって感じました。

障がいのある人などが優先利用できる多目的トイレの前では、日本人と外国人の大げんかを目撃しました。理由は、多目的トイレに一般の人たちの長い列ができていたことで、これにつえをついた外国人が「お前たちは向こうのトイレを使ってくれ」と怒鳴り、並んでいた日本人が「誰でも使えるトイレだ。使いたいなら列に並べ」と反論していたのです。

私は日本人ですが、多目的トイレについては外国人の主張に賛同します。一般のトイレを使えない人たちがいることを理解してほしいです。トイレ待ちの列の中でそういう人を見かけたら「お先にどうぞ」と譲り合う精神。それが成熟した社会の証しだと思います。

日本と海外の文化やマナーには、いい面も悪い面もあることに、今回あらためて気づかされました。そのいいとこ取りをすれば、きっとよりよい社会になります。自分で出したゴミは片づける、たばこを吸うなら携帯用の灰皿を持参する、外国人たちにはそんな日本のマナーを持ち帰ってほしいし、日本人には困っている人やプライオリティの高い人をもう少し気遣う心のゆとりがほしいですね。

大きな国際大会を開催する意義は、競技場の中だけではなく、観客を含めた異文化の交流にもあるのです。来年はオリンピック・パラリンピックがやってきます。ワールドカップで起きたこと、気づいたことを生かして改善すれば、きっと2020年大会は今回以上の成功を収め、よりよい社会実現へ、進路が開けてくると思います。

◆大日方邦子(おびなた・くにこ)アルペンスキーでパラリンピック5大会連続出場し、10個のメダルを獲得(金2、銀3、銅5)。10年引退。現在は日本パラリンピアンズ協会副会長で、平昌パラリンピック日本選手団長を務めた。電通パブリックリレーションズ勤務。47歳。