日本の国民的スポーツである野球界のレジェンドたちが、開会式で希望の火をつないだ。プロ野球巨人終身名誉監督の長嶋茂雄氏(85)、ソフトバンク球団会長の王貞治氏(81)、巨人やヤンキースで活躍した松井秀喜氏(47)が、国立競技場内での聖火リレーに登場した。長嶋氏にとってはアテネで立つことができなかったオリンピック(五輪)の夢舞台。勇気を与えるリレーで、スポーツの祭典を彩った。

ミスターが聖なる火をつないだ。開会式の聖火ランナーの大役を務めた長嶋氏は、吉田沙保里氏、野村忠宏氏からトーチを受け渡された。ともに国民栄誉賞を受賞した愛弟子、松井氏の肩を借り、盟友の王氏に手渡す。ゆっくりと次のランナーである医療従事者の元へ歩を進める。ゆらめく炎を見つめ、日の丸を意識したかのような真っ赤なメガネの奥の瞳が燦燦(さんさん)と輝いた。

ミスターにとって57年ぶりの東京五輪の開会式だった。64年。新聞社の企画で王貞治氏とともに連日、会場に足を運んだ。開会式で見たブルーインパルスの五輪マーク。かつてインタビューで「開会式、行きましたねえ。いい雰囲気でした。飛行機がオリンピックのマークを描いて、最後は北へ飛んでいった。ものすごく印象に残っています。あっという間に終わっちゃったけれど、面白かったなあ」と爛々(らんらん)と答えた。色あせない記憶がこの日、左手に持つトーチから発せられた、だいだい色の炎に塗り替えられた。

80年に巨人監督を退任後、テレビ局のリポーターで84年から3大会連続で五輪を観戦。そして04年アテネ五輪は監督として、念願の舞台に立つはずだった。だが同年3月に脳梗塞で倒れた。「最後まで何とかして行ってやろうと思っていた。日の丸はやっぱりね。やる気になるよね。やってやろうという気になるよ」。長年、培った強靱(きょうじん)な体力と不断の努力によるリハビリ。もう、たどり着けないと思った祭典に、長い年月を経て、奇跡的に足を踏み入れた。

■王貞治氏、開催へ熱い訴え

世界のホームラン王が、国立競技場内で聖火を運んだ。王氏は野村氏、吉田氏から託された火を長嶋氏、松井氏と3人でつないだ。右手でトーチを掲げ、長嶋氏を気遣いながら1歩1歩進んだ。

王氏は野球・ソフトボールの今五輪での3大会ぶり競技復帰に尽力。東京五輪・パラリンピック組織委員会の理事を務めている。前回東京五輪が開催された64年には当時のプロ野球記録となるシーズン55本塁打。今年1月には思い出深い、この年の五輪を振り返り、「あれから日本がすごく飛躍しましたよね。今回の五輪でも、その後の日本は大きく羽ばたくんじゃないかと思う」と力説していた。

新型コロナウイルス禍の中でも「ぜひ実現したい。ぜひ人間の知恵を使いながら、見事に開催したい」と熱く訴えていた東京五輪で大役を全う。日本プロ野球記録の通算868本塁打を誇る世界の「サダハル・オー」が、未来への思いを火に込めた。

■松井秀喜氏、恩師に寄り添い

「GODZILLA」が希望と勇気の火をつないだ。松井氏は、13年にともに国民栄誉賞を受賞した恩師の長嶋氏に寄り添った。右腕でミスターをしっかり支え、1歩ずつかみしめるように前へと進んだ。

星稜(石川)時代に出場した甲子園から「ゴジラ」の異名で長距離砲として球界をけん引してきた。全米にもその名をとどろかせた。今夏は高校野球も同時開催されている。昨夏はコロナ禍が球児たちの夢を奪った。聖地・甲子園を目指す高校球児にも大きな力を与えた。