東京五輪のバスケットボール女子で初の表彰台となる銀メダルを獲得した日本代表が9日、東京都内で記者会見した。スピード重視のスタイルで次々と強豪をなぎ倒し、一躍名を上げたのが米国人のトム・ホーバス監督(54)だ。3年後に迫る24年パリ五輪でさらなる飛躍を遂げる上で、まずは名将ホーバス監督の去就が注目されている。

選手から「トムさん」と慕われるホーバス監督は、コートサイドでの厳しい表情とは一転し、会見では柔和な笑みをたたえた。「日本の選手たちはあまり大きなことを言わない。でもやる気持ちは強い。その気持ちを引き出すために、僕は熱い気持ちで話をしてきた」。いつものように日本語で熱弁した。

快挙の裏に、この人ありだ。1990年に来日し、トヨタ自動車でプレー。3点シュートの名手で、4年連続で得点王に輝いた実績を持つ。現役引退後はコーチとなり、10年からWリーグのJX-ENEOSで女子の指導を始めた。妻は日本人で、日本滞在歴は通算で15年を超える。指導に通訳は介さない。「間違いがあってもいい」。選手には自らの言葉で伝える。

193センチのエース渡嘉敷が負傷で不在だった今大会、日本の平均身長は出場12カ国で2番目に低い176センチだった。体格面で劣る中でチームは、スピードや運動量を武器に快進撃を続けた。何度もプレーを止めて確認作業をするほどの「細かすぎる戦術」と、日本代表合宿では質量ともに「世界一」と自負する猛練習でチームを高みに押し上げた。

その指導について主将の高田は「正直、練習はきつい。体力的な部分だけでなく、フォーメーションなど覚えなければいけない量が多く、頭を使う」と打ち明ける。体を使って相手の動きを止めるスクリーンプレーでは、少しでも角度が違えば何度もやり直しを求められるそうで「細かいところをやらないと勝てないと教えられてきた。今回やってみて、そこが重要とあらためて感じた」と言う。

大会前は八村や渡辺のNBA勢がいる男子に注目が集まったが、終わってみれば女子の快挙に世間は沸いた。注目されるのは、「マジック」とも称された采配で、世界規模で株を上げたホーバス監督の去就だ。その問いに対し、指揮官は「ほとんど考えていない。まだ日本協会とは話をしていない。本当に分からない」。日本協会の関係者も「今は言えることがありません」と話すにとどめた。24年パリ五輪で再びメダルを目指す上で、名将の動向から目が離せなくなった。【奥岡幹浩】

◆トム・ホーバス 1967年1月31日生まれ。米ペンシルベニア州立大卒業後、ポルトガルリーグのスポルティングを経て90年にトヨタ自動車に入団。94年にNBAのアトランタ・ホークス入り。その後、米独立リーグのピッツバーグ・ピラニアズ、トヨタ自動車、東芝でプレー。指導者となりJX-ENEOSなどを指揮し、17年女子日本代表監督就任。203センチ。

 

■高田真希、小さい選手でもできることを証明できた

銀メダルの獲得で、高田は新たな扉が開いたことを実感した。スピードや運動量を武器に快進撃を続けたことに「小さな選手が大きな選手に勝てることを証明できたことは、子どもたちに元気や勇気を届けられたと思う」。今後はWリーグの新シーズンへ思いをはせ「もっともっと、女子のバスケットを盛り上げていければ」と誓った。

<バスケットの報奨金>

日本協会(JBA)の規定では金500万円、銀300万円、銅100万円。また、日本オリンピック委員会(JOC)は金500万円、銀200万円、銅100万円。今回の銀で各選手は500万円のボーナスを手にすることになった。