なぜ稲見萌寧(22=都築電気)は、東京オリンピック(五輪)で銀メダルを獲得できたのか?

ゴルフでは日本人初の五輪メダルの快挙を達成。4日間、計72ホールを振り返ると、特徴的な数字が浮かび上がる。顕著なのはフェアウエーキープ率。トータル85・71%は、2位で母の母国フィリピン代表で出場した、笹生優花らの75%を大幅に上回るダントツの数字だ。特に逃げ切りで金メダルを獲得した、ネリー・コルダ(米国)を猛追した最終日は、92・86%という驚異的な数字を残した。

出場資格のあったトップ選手が軒並み出場した女子ゴルフは、メジャーとそん色ない顔ぶれだった。その中で、海外ツアーでは目立った成績のなかった稲見が2位となったのは、地の利だけではない、持ち味を生かすことに徹したプレーが理由といえる。実はドライバー平均飛距離は、226・2ヤードで出場60人中43位。263ヤードで1位のマリア・ファシ(メキシコ)とは、36・8ヤードもの開きがあった。

251ヤードで平均飛距離6位の金メダル、N・コルダとも平均で24・8ヤード差あった。ドライバーを持たないホールもあるため、単純比較はできないが、距離の短いパー3を除くと1日14ホール。1日あたり24・8ヤード×14ホール=347・2ヤード、およそパー4の1ホール分ほどの距離の差を埋める戦いを強いられていた。それが4日間。合計では1388・8ヤードもの差がありながら、最終日の終盤17番終了時点では、N・コルダに追いついた。その要因こそがショットの正確性で、フェアウエーキープ率に表れた。

ティーショットをフェアウエーに運ぶことができれば、第2打は必然的に正確になってくる。ただ、あと一歩、わずか1打差、金メダルに届かなかったのは、アプローチとパッティングの差ともいえる。「ストロークス・ゲインド」という「貢献度」を示す数字で、稲見はアプローチの項目が全体15位、パッティングの項目で同16位だった。

「貢献度」は、どれだけスコアを稼ぐことができたかを示す数字で、アプローチはN・コルダが4位の5・906だった。つまり4日間で約6打分、パーでもおかしくない位置から、6バーディーもアプローチで稼いでいるということになる。対して稲見は3・189。絶妙なアプローチは、N・コルダよりも約3打も少ないことになる。同様にパッティングは9位のN・コルダが9位で3・360で、稲見は2・068。ここでも4日間で1打余りの開きがあった。

ちなみにパッティングの項目で1位は、アディティ・アショク(インド)で13・019。2位のハンナ・グリーン(オーストラリア)の7・560を大きく引き離すダントツの数字だった。世界ランキング200位(当時)ながら、メダルを争って4位に食い込むことができた理由は明白だ。

世界トップレベルの欧米や韓国勢とは、ショットに差があるようなイメージが、多くのゴルフファンにはあったかもしれない。だが、数字をひもとくと、N・コルダとの決定的な差は、むしろアプローチとパターにあった。裏を返せばショットに関しては、稲見はN・コルダをはじめ、米ツアーのトップにもひけを取らないことを証明した。国内ツアーでもまれた稲見の活躍は、国内ツアーを主戦場とする選手たちにも、活力や自信を与える結果となった。【高田文太】