永瀬貴規(27=旭化成)の右膝手術の後押しは、恩師の「ひと言」だった。

母校、長崎日大高柔道部監督の松本太一さん(41)は、17年世界選手権を観戦するため2泊4日の弾丸でブダペストを訪れた。4回戦で負傷した教え子に控室で久々の再会を果たすと、感じたことのない悲壮感で衝撃を受けた。「まさに、漫画で見る『どよーん』という表情でびっくりした。だから、あえて『けがしたんだからしょうがないだろ。前を向けよ!』とニコニコで言った」。

帰国後、永瀬は病院で「右膝内側側副靱帯(じんたい)」と「前十字靱帯損傷」の診断を受けた。人生初の大けがで病名を受け入れられず、「明日も違う病院へ行く」との連絡を受けたため松本さんはこう返した。

「まだ、けがを受け入れられないのか? アホか。今なら東京五輪はギリギリで間に合うから、早く手術の段取りしろ。絶対に慌てるなよ」

最重量級選手として第一線で活躍した恩師は、その時に五輪までの3年間の道のりを計算した。「1年休んで戻るのに1年。ラスト1年で巻き返せば、あいつならいける」。教え子はその言葉通りの3年間を歩んだ。入学当時に「もやし」と呼ばれた学生が、11年の時を経て世界一の柔道家となった。「挫折を味わったことで人間的にも柔道家としても成長したと思う。酒癖は悪いけど、落ち着いたらあいつと祝杯をあげたいね」。再起を果たした27歳の柔道家にこうメッセージを送った。【峯岸佑樹】