連載「検証、東京五輪 祭のあと」の第2回は新型コロナウイルス対策。東京五輪でアスリートと日本国民を分離する「バブル」は保たれたのか。メダリストが無断外出して東京タワー観光をしたり、近隣のコンビニで買い物したり、ほころびが見られた。一方で大会組織委員会は「100点満点ではないが、大きな観点から見ればバブルは維持された」と評価している。

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東京・晴海の選手村に人だかりができていた。大半の競技が終わり、閉会式を翌日に控えた7日夜。選手やスタッフが村から歩いて出てきて子供たちにゴムバンドなどを渡す。一瞬で密になり、手も触れていた。

「パラレルワールド(異世界)」。そう表現した国際オリンピック委員会(IOC)アダムス広報部長の言葉を借りれば、選手村と日本は「バブル」で接しないはずだった。ところが、オーストラリア男子ホッケー代表は6日未明にビール購入目的で無断外出。「ほぼ毎日、選手は出てきますよ。コンビニとか行くので」とファンが村前で出待ちする理由にもなっている。

ハイヤーなど手配車両の乗り場も、選手村の外にある構造。組織委関係者は「歩いて出られるし、車に乗れば正直、あとは自由」。外出は競技場、練習場と「本邦活動計画書」に記した用務先しか許されないが、組織委の岩下警備局長は「性善説に立って行き先を聞くことはしていない」とスルー状態の運用を認める。

一方で「世界にこれほど安全な場所は存在しない」(IOCデュビ五輪統括部長)というほど「バブル」内の検査は充実している。東京大会の検査は7日までに65万1296件が行われ陽性者は151人。陽性率は0・02%となっており、東京都の6日の陽性率は22・3%と確かに桁が違う。

業務委託スタッフも含めた大会参加資格証の保持者は9日現在で累計458人が陽性に。ただ、選手村の滞在者に限れば34人と少なく、懸念された大会の「クラスター」もチーム12人のうち6人が感染したギリシャのアーティスティックスイミング代表だけだった。

大会中にはジョージアの柔道男子銀メダリスト2人が東京タワー観光をして資格剥奪処分を受け、陽性反応が出たボートの審判員2人は隔離先の療養施設を無断で脱出。潔白を証明するため自前で陰圧車(感染者専用車両)を呼び、クリニックに行ってPCR検査を受けたケースもあった。そこで陰性となれば大会に復帰できると考えたという。

このほか、選手村の公園で7、8カ国の選手団が参加した飲み会が開かれ、警視庁月島署の署員が出動する騒ぎがあったり、六本木や浅草など観光地での選手目撃情報も相次いでいる。

その中で、今回は運が良かったと言うほかない。いくら「バブル」内がクリーンでも、新規感染者数が5000人を超えた都内に自由に繰り出せればウイルスを持ち帰りかねない。ギリシャの感染者集団は「すぐ摘出」(中村英正メインオペレーションセンターチーフ)したことで拡大はしなかったが、外から持ち込まれてもおかしくなかった。

閉会式から一夜明け、取材に応じた武藤事務総長は「大きな観点から見てコロナ対策は機能した」と総括した。一方で「いくら説明してもプレーブック通りに行動してくれない人はいるし、人的にも限界がある。100点満点はない」と小さな穴は事実上、見過ごしている。それでも結論は「全体的にバブルは維持された」。針ほどの穴でも泡は一瞬ではじける。国民に約束された「バブル」は完全ではないまま何となく無事に幕を閉じた。【木下淳】