パラ水泳界の新星、山口尚秀(20=四国ガス)が男子100メートル平泳ぎ(知的障害)が、世界新記録の1分3秒77で金メダルを獲得した。予選を1分4秒45の大会記録で1位突破した山口は、決勝でも快泳した。

「金メダルの獲得と自分のもつ世界記録をさらに更新する、2つの課題を達成できてとてもうれしく思います。(電光掲示板を見て)『あー、出たなー、3秒台』と思いました。私のほかにも(1分)4秒台を出した選手もいるので、かなり接戦になるかと思っていました」。

身長187センチ、体重85キロの体を生かした大きな泳ぎだった。今大会は専門外のバタフライで4位。前日の混合400メートルリレーも4位で、わずかにメダルに届かなかった。「得意の平泳ぎでは、メダルをとる」と誓って臨んだレースで結果を出し、胸を張った。

保育園に通っていた3歳の時、知的障害をともなう自閉症と診断された。会話する能力や言語が年齢相当より遅れがちで、コミュニケーションが難しいとされる。公園で他の子を押しのけたり、パニックを起こすこともあったという。

そんな山口も水泳には夢中になった。祖父母に連れられ、歩行浴ができる施設で水に親しんだ。スイミングスクールに通うようになると、黙々と練習を積むようになった。高校1年の時に全国障害者スポーツ大会でメダルをとると、本格的に競技を開始。2年前、18歳で世界パラ水泳に出場すると、100メートル平泳ぎで世界新を出して優勝。一躍エースに躍り出た。

目標とする選手は今大会の代表でもある視覚障がいの木村敬一。「日本のパラ水泳を背負って、いろいろな大会で結果を出していることに強い憧れを感じる」と話す。自らもパラ水泳を背負う覚悟。「障がい者スポーツの発展に貢献していきたい」と言い切る。

山口が生まれた2000年は、シドニー五輪女子マラソンで高橋尚子が金メダルを獲得。プロ野球では巨人の松井秀喜がシーズン、オールスター、日本シリーズのMVPと大活躍した。「尚」と「秀」。国民栄誉賞の2人から付けられた名前に「自分のパラの代表選手として何か2人につながることができれば」と話していた。自国開催のパラリンピック直前に彗星(すいせい)のように表れたパラの新星が、大きな仕事をやってのけた。【荻島弘一】