【自己分析】根尾昂は、一体どうやってこの短期間で劇的に立ち直ったのか〈前〉

選手の技術面に加え、人間性やドラマにも迫る田村藤夫氏(63)の「プレミアムリポート」は、中日の浅尾拓也2軍投手コーチ(38)に続き、根尾昂投手(22=大阪桐蔭)へのインタビュー前編に入ります。

(トップ画像は、カメラマン田村藤夫氏のリクエストに応えて元気よくダブルピース)

プロ野球

2月の沖縄・読谷で2軍キャンプを視察した際、フリーバッティングに登板した根尾は、かなりコントロールを乱していました。打撃ケージ後ろで見ていた私は驚き、今後のピッチングに不安を感じました。フォームの問題ばかりか、根尾がメンタル的にもショックを受けたのではと、非常に気がかりでした。

そこから、ブルペンに入った時の様子などを、スタッフに時折連絡して確認しながら、根尾の状態を見守ってきましたが、3月に入ってから少しずつ実戦登板できるように調整が進みました。ファームで6試合に投げ、打者20人に2安打6四球、6奪三振、失点3という成績(4月10日時点)を出しています。特に、4月5日のオリックス戦(ナゴヤ球場)では4番手として登板。打者4人に3四球と制球を乱し、自責3と乱れています。

まだまだ、完全復調とは言えませんが、どうやってこの短期間で、少なくとも試合で投げられるまでに復調できたのか。浅尾コーチの話を参考にしながら、根尾にもそのプロセスを率直に聞きました。前後編に分け、苦しい状況でも真摯(しんし)に練習に取り組んできた根尾の実直さを、ぜひお読み下さい。

8回「奪い取った場所ではない」

田村氏お疲れさま。いいよ、座って、座って。

根尾はい。お願いします。

田村氏時間つくってくれて、ありがとうね。よろしくお願いします。まずね、今日のピッチングを振り返ってください。

◆3月28日の楽天戦(交流試合=ナゴヤ球場)2点リードの3番手として8回表に登板。1イニングを投げ、打者5人に1安打1四球1奪三振で無失点という内容だった。

根尾そうですね、フォアボールを出して、全部流れが悪かったんで。そこが一番気にするところかな、と思います。

田村氏さっき、浅尾コーチに聞いたんだけど、『先頭バッターには、しっかり腕が振れてなかったように見えました』と言ってたよ。『ランナー出てから、開き直ったんじゃないですか。クイックでちょうどバッターのタイミングが合いだしたので、腕が振れだしたんじゃないですか』って。そこはどうなの?

根尾はい。こういうピッチングを目指したいなとか、こういうふうに空振り取りたいな、っていうのがあって。それはランナーがいるいないは、本当は関係なく、いつでもやらないといけないんです。でも、ランナーがいる時に、やっぱり、そういうものをより意識するというか。勝手にそうなっているのかな、という投げ方とか。しっかりキレのあるボールとかも、そういう時は、ちょっと投げ方が変わってるのかな、とは思います。

田村氏8回を任されてるらしいじゃない?

根尾いやいや、任されてないですよ!

田村氏アハハハハハ

根尾まだ、いないところに入っているという感覚なんで、僕からしたら。奪い取ったという場所ではないんです。ただ、投げさせてもらえる以上は、と思って投げてます。

キャンプ終わって「こうなのかな」

田村氏ちょっと聞くけど、俺、キャンプ見に行ったでしょ、2月に。

根尾はい。

田村氏そこでフリーバッティングに投げたでしょ。

根尾はい。

田村氏その時、ボールが暴れてたじゃないか。

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1959年(昭34)10月24日、千葉・習志野出身。
関東第一から77年のドラフト6位で日本ハム入団。93年に初のベストナイン、ゴールデングラブ賞を受賞。
93年オフ、巨人長嶋監督からFA移籍でのラブコールを受け(日本ハムに残留)、96年オフには、当時の王監督(現会長)から直接電話でダイエー(現ソフトバンク)移籍を決断。07年から中日落合監督に請われて入閣した。
ONと落合氏から高く評価された捕手だが、田村氏はそうした経緯について「自分から人に話すことではない」というスタンスをかたくなに守る。42年間のプロ野球生活を経て解説者に。プロ通算1552試合出場、1123安打、110本塁打。