25日が最終日の前橋ミッドナイト競輪には、執念で走る3人がいる。市田佳寿浩と大竹哲也、宿口潤平。それぞれが大けがを克服して戦う姿をリポートする。

市田佳寿浩が前検日に心境を話す
市田佳寿浩が前検日に心境を話す

市田佳寿浩(43=福井)は前検日に「いいバンク」と話した。10年7月に、寬仁親王牌でG1初制覇を飾った前橋バンクに来てうれしそうだった。

昨年2月には、G1全日本選抜で落車して選手生命を脅かす大腿(だいたい)骨頭粉砕骨折を負った。1年4カ月のブランクを経て今年5月に復帰すると、直近2場所は連続して準V。走れる喜びと、流れに沿って走れている自信を感じている。脇本雄太のオールスター制覇や、弟子でデビューから活躍する柳原真緒、高2の次男がインターハイの1キロタイムトライアルを制した姿に「みんな順調だね、良かった」と目を細める。

しかし、余裕たっぷりの様子は快勝した初日特選まで。準決で目標から離れて大敗すると、表情を険しくした。タイトル戦線の中心にいた頃のように、笑みがなく、口元を引き締めた。最終日は徹底先行の番手ではなく「結果を納得するために」と自力勝負を決意。原点ともいえる前橋バンクで、闘争心を高めていた。

上昇一途の大竹哲也
上昇一途の大竹哲也

大竹哲也(38=静岡)はまさに今が旬だろう。今期は7月平塚で準Vなど勝負強く、デビュー11年目にして初めて競走得点を90点近くまで上げた。昨年2月の大けがが転機になった。伊東競輪で誘導員をしていた務めた際に転び、左大腿(だいたい)を骨折。約3カ月後に復帰すると、少しずつダッシュを取り戻した。カマシに頼らず、押さえ先行を増やして末の粘りもアップ。それでも、おごりはない。「今でも強い振動があると、左足にじんじんとした痛みがある。この先も何があるか分からないからね。だから、1戦1戦を大事に走るだけ。それに、今の点数はラインのおかげだから」。あくまで控えめに、無欲で初のS級入りをたぐり寄せる。

復帰初戦を快勝して安堵(あんど)する宿口潤平
復帰初戦を快勝して安堵(あんど)する宿口潤平

予選4Rでは宿口潤平(36=埼玉)が好ファイトを見せた。5月に落車して復帰初戦。初めて骨折した左鎖骨は「手術用の針金でつないでいる」。他の選手との接触プレーは避けたいのが本音だが、別線を分断してから直線で追い込み1着を奪った。「後ろに引いてられないよ」と、恐怖心を気合で打ち消した。投入したばかりの新車の乗り心地もいい。S級の弟・陽一に負けじと、今後も総力戦で浮上する。

【野島成浩】