ここ数年でアスリートのセカンドキャリア問題が社会問題にも発展しています。私自身も最近、よく相談を受けます。ただ、それはアスリート自身からではなく、その問題を何とかしたいというマネジメント会社や代理人事務所などの第三者からの声が多いです。そうした方は自身ももともとアスリートであることが多く、セカンドキャリア問題に目を向けやすい人たちと言えます。しかし、僕はこうした人たちは選手のことよりも自分の生活を重要視しているのではないかと思い、どこか違和感を感じていました。

僕もJリーガーを目指す前はアスリートのマネジメントをしていました。それはチームの移籍などを手がける代理人ではなく、あくまでも個人のライフサポートとしてでした。その時は選手としての価値ではなく、その人自身の価値をどのようにしてアウトプットしていくかを考えていました。

契約形態は0円で契約書を交わす完全出来高制。その選手の現役終了後のステージをイメージし、人柄や趣味、思考などからブランディングを行っていました。大事なことは選手としてピークアウトした時に、人としてもピークアウトさせないことです。そもそも選手が汗水流して稼いだお金から数%をもらってマネジメントをするのはおかしな話だと僕は思っています。選手との信頼関係が構築できていないマネジメント会社の人間や代理人が多いと感じるのも、そうした点に原因があるのではないかと考えています。

そもそもセカンドキャリアは選手自身が考えなければいけない問題です。サポートする側の熱量が選手自身の意識を上回ることはあり得ないのです。それは選手より監督の方が勝ちたい意識が高いチームと同じくらい間違っています。プレーヤーは光を浴びる分、雨風も受けて先頭に立つことが自身への責任です。しかし、ことセカンドキャリアの話になると何故か矢面に立てない選手が多いのです。いつかはサッカー選手を終えることは誰もが分かっているのですが、ほとんどの選手がセカンドキャリアに当事者意識がありません。

前置きが長くなりましたが、僕はその根本的な問題が部活動にあると考えています。10代の最も感受性が強い時期にひとつのことだけをやらせる部活動には、ほぼ意味がないと思います。サッカーさえしていればいい。これが一番の問題ではないでしょうか。

ドイツの強豪ドルトムントでは勉学を重要視し、テストで赤点を取ったら試合に出られないルールが設けられています。学生の本分は勉強だと思います。それは受験のための勉強や知識優先教育といったことではなく、これから先の社会で必要となってくるものを学ぶという意味です。

勉強は思考回路を太くします。思考回路が太くなれば、そこにたくさんの情報が流れるようになります。学生時代には、さまざまなことを見聞きして考え、決断することが求められますが、部活動ではひとつのことだけをずっと押しつけられてしまいます。その世界での正解は顧問しか持っていません。その中で一生懸命になればなるほど、社会から遮断され、教養から遠ざかります。全員がとは言いませんが、サッカーしかしてきていない「子ども」にセカンドキャリアを考えることは難しいのです。

アスリートはイメージ力に優れています。「こうなりたい」を想像することはとても得意です。そのイメージと体の動きを合わせられるからこそトップアスリートなのです。しかし、思考力は乏しい。「こうありたい」を思考することがとても苦手です。「こうありたい」を思考できなければ、自分という人間にどんな価値があるのかを知ることはできません。目的意識を持ち、高い視座を持ち、主体性を持って生きていくことを部活動では教えてくれないのです。

決められたルールの中で情報が遮断され、適性もわからないままひたすらひとつのスポーツを強いられることで生まれる人間はロボットです。セカンドキャリアの世界では自分で決めていかなければいけないことばかりです。コーチになったり、解説者になったりするのは、ほんのひと握りの人たちだけ。その人たちの中にも、自分が本当にその仕事をやりたいのかがわかっていない人もいるのではないでしょうか。部活動という閉鎖的で、指導者の思想が強い集団の中でずっと生きていれば、思考停止をしてロボットになった方が賢いのです。

しかし、それでは本当の意味で社会の中で生きていくことはできません。今すぐ部活動廃止ができるわけではないですし、部活動をなくしたところですぐに選手の意識が変わるわけでもないでしょう。そうした状況だからこそ、僕はセルフプロデュースが必要不可欠だと思っています。自分の現在地を認知し、どこに向かいたいのかを明確にしていく時間が必要なのです。デュアルキャリアやパラレルキャリアなどの言葉で安心している場合ではありません。

「明日があるなんて誰が決めた」

そう思って自分の人生と向き合っていかなければ、セカンドキャリアの問題は解決しないと思っています。(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結ぶも開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退した。同年12月には初の著書「おっさんJリーガーが年俸120円でも最高に幸福なわけ」(小学館)を出版。オンラインサロン「Team ABIKO」も開設した。175センチ、74キロ。