サッカー界でも、新型コロナウイルス蔓延の影響を大きく受けています。売り上げ損失が予測される状況ですが、先日マンチェスター・シティーの受けたFIFAファイナンシャルフェアプレー(FFP)違反について現地から色々情報が入ってきておりますので、今回は一部を紹介させていただきます。

シティーが指摘されたのは「財務諸表の改ざん」の部分です。クラブのオーナーが自分自身に関連する企業などからのスポンサー契約を通して投資を行った場合は、欧州サッカー連盟(UEFA)による特別審査が入るようです。「審査結論によっては、そのスポンサーの市場価値に合わせて、支払われた額が“収益のバランス”に適応されることがある」ともレポートされています。つまり、個人の潤沢な資金に任せて選手の獲得などが自由に行われないようにするための一つの措置です。

今回のシティーの場合はメインスポンサーを含めて主にアブダビの企業が多くいます。特にクラブのオーナーであるシェイク・マンスール氏はUAEの王族一派ということもあり、チームのスポンサー企業には胸スポンサーのエティハド航空などマンスール氏の親族が設立した企業が多くあります。さらにマンスール氏自身の資産も潤沢にあり、実際のところ彼の個人会社から、スポンサーになった企業を通して資金を投入する実現性は十分に可能な状況です。

現地のレポートではエティハド航空を始め、複数の関連企業からのスポンサーシップの売り上げというように見せて増収とし、その上での選手獲得であると報告されていたとありました(決定的だったのは、真偽不明にはなりますが、この改ざんに関するメールでのやりとりが外部に流出したこともあったようです)。

他に、現地紙からは、選手の肖像権ビジネスで外部企業を通してビジネスを行うことで関連の支払いを操作した疑いをかけられるなど、いくつもの数字上の“偽装”を行ったことが指摘されています。結論的には契約書を改ざんするなどして、クラブの収支が健全であるかのように見せかけたということになります。

この一連の騒動を指摘するなど、裏で動いていたのは一体誰なのか? 疑われるのは競合ともいえる存在。そこでよぎるのが、アラブ諸国がスポンサーしているカタールやUAEを中心としたアラブ諸国です。その大元は上記にもある、エティハド航空のマンスール、カタールのタミーム皇太子(現首長)の側近でもあるナーセル・アル=ヘライフィー(現パリ・サンジェルマン(PSG)会長)、エミレーツ航空・グループ会長兼最高責任者であるシェイク・アハメッド・ビン・サイード・アル・マクトゥーム殿下(ドバイ政府)というところになります。それぞれ競合つぶしということでけん制し合うのは当然かもしれません。フットボール界の近年の動きから、カタールは一連のマネーロンダリング疑惑もありなかなか大きなところへ行けていません(バルセロナからメインスポンサーをはじかれたり、パリ・サンジェルマンのメインスポンサーからはじかれたり)。一方で、会長がUEFAの評議員に食い込むなど、バランスをみてうまく手を引きつつ内部に食い込んでいます。違う形なのか、ほとぼりがさめてから欧州フットボール市場に踏み込んでくることを考えているのではというもくろみを感じます。エミレーツは国営企業に限りなく近く、ある意味同じUAEのエティハドとはライバル関係。航空業を通した戦いも影響しているのかもしれません。サルコジ仏元大統領やプラティニを通して色々仕組み、本体が大きく指摘される前にうまく逃げたとされるPSG会長のカタール・ナーセル・アル=ヘライフィー。各スポーツ競技やワールドカップなどの大イベントを通してスポーツ産業そのものの大きな支柱にもなっているエミレーツ。ドバイ政府とマンチェスターの小クラブに手を出したマンスール。表面には表れないせめぎ合いがそこにはありそうです。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)